おすすめ本(7) 「史記」 (歴史書?)
うーん、ジャンルといっていいのかこれは(笑)。
とりあえず歴史書の中で何より面白いのは「史記」。これは異存ないよね。
確か高校の頃だったと思う、初めて史記を読んだのは。何を思ったか、学校の図書室で漢文(といってもさすがに原文ではなくて、レ点とかうってあるやつ)の史記を借りてきて読み始めた。が、すべてを漢文で読むのはすぐに挫折し(笑)、途中からは訳文を読んでいたと思う。だけど、後にも先にも「原文で読みたい」と思った歴史書は、史記だけだ。
何を読みたかったのか。それは「項羽列伝」であります。ま、いかにも血気盛んな高校生が読みたがるところだわね(笑)。項羽ってのは、どうも若者の気を引くんだよね。いかにも英雄、いかにもヒーロー。そして、すばらしく強いのに、最後には破れる悲しい定め。更に、虞姫という絶世の美人との恋。ともかく面白い要素がてんこもりの人間だ。——この頃は、このヒーローが、数十万の人間を穴埋めにしたり残忍無比な所行をしていたことなどまで目が向かなかったのだな。
歴史書ってのはたいてい無味乾燥したものなのに、この史記だけは「血がかよった歴史書」なんだよね。なにより、王様や偉い人だけでなく、歴史の中に埋没する名もない人間たちを注意深く救い上げている点がすばらしい。——介子推。晋の文公の、おそらくは無名だったはずの従者。読んでは涙しましたよ何度も。荊軻。秦の始皇帝の命を狙った暗殺者。「風蕭々として易水寒し。壮士一たび去って復た還らず」口ずさみましたよ、何度も。カッコよかったなぁ、みんな。出てくる人間出てくる人間、ハードボイルドで。
思えばミーハーだったと思う。だけど、それが縁で歴史に興味を持つようになったんだから、史記の歴史書としての役割は立派に果たしてたわけだな。なにより、史記がなければ、後世の人間は介子推も荊軻も知らなかったかもしれない。そう思うだけで、「司馬遷、あんたは偉い!」と思うよ。小説なんか読んで、それを書いた人を偉いと思うことはまずないけど、史記だけは「よくぞ書いてくれた」と心の底から思うよほんと。
「歴史がキライ」って人の多くは、歴史を「事件の積み重ね」だと思ってる。「西暦○○年に××が起こりました」みたいな年表だと思ってる。そこが間違いなんだな。歴史は、人間の積み重ねなんだ。こんなすっげー人間がいる。こんなとんでもない人間がかつて生きていた。その驚きの積み重ねなんだよね。
史記は、その「この時代に生きた人間」を実に生き生きと描写する。それも、非常に短い文章の中に。これは、すごいことだよ。淡々と、すさまじい出来事を綴っている。——興味持った人は、とりあえず「列伝」から読みましょう。これが一番面白い。「世家」なんかはどーでもいい、つまんないから(笑)。訳文だけでもいいんだけど、書き下し文もあわせて読めば、その頃の空気がきっと感じられるです。
公開日: 水 - 11月 12, 2003 at 02:28 午後