おすすめ本(15) 「パパ、お月さまとって!」 (絵本)
お子さんをお持ちのママなら、必ず知っているはず。エリック・カールの名作でありますね。
お子さんをお持ちのパパ。・・知ってますか?
そうなのであった。子供ができて初めて、「今までほとんど読んだことのないジャンル」というものがあったことに気づいたのであった。それは「絵本」だ。確かに、絵本って(そりゃ自分が子供の頃は読んだけど)買って読もうって気にはならないよなぁ、子供がいないと。
で、生まれる前から、本屋なんかにいく度に、つい気になって絵本のコーナーをのぞいたりしてたんだけど、なかなかたくさんのものが出ておりますねぇ。そして意外だったのは、思った以上に「大人向けの絵本」が多いということ。——いや、子供向けにはなっているんだけど、「これは子供より、それを読ませる(つまり本を買う立場の)親が読むことを考えて書いたものだな」っていうのが割と多いんだね。
例えば、絵本界の名作であるらしい「百万回生きた猫」なんかは、もろにそうだと思う。これは絶対に大人が読んで「こんなすばらしい物語は絶対にうちの子に読ませてあげなくちゃ!」と思うのを考えて書かれた気がする。「葉っぱのフレディ」なんかもそうじゃないのかな。——いや、「大人に読ませる絵本」が悪いっていってるんじゃないよ。うちにも「百万回生きた猫」あるし(笑)。ただね、それは大人が好きで読むならまだしも、子供に与えるというとき、なんか「大人の思惑」みたいな余計なものがくっついてしまいそうな気がするのだな。「これはいい本なんだから、絶対感動するから」というような。
もっと、純粋に「子供をいかに楽しませるか」ということを追求した絵本っていうのはないのかなぁ・・と思っていた時、見つけたのがエリック・カールなのでした。最初に買ったのは「はらぺこあおむし」だけど、その色彩感覚のすばらしさ! 見るだけで楽しくなる、「これこそ絵本だ!」って感じでありました。で、その後、この人の他の作品をいろいろ探しているうちに出会ったのが「パパ、お月さまとって!」であります。
まず、タイトルがいい。「パパ」だもん(笑)。なんかさ、日本の絵本とかって、基本的には「母と子」のことだけ考えてる感じがするんだよね。そこに「パパ」の入り込む余地はほとんどないわけだ。だけど、この本は「パパと子」のための本なんだ。そこがちょっとうれしい。——いや、かなりうれしい。そして、仕掛けの面白さ。この本、お月さまをとりにいく話なんだけど、「月をとる」なんてのは、そりゃもう小さな本の中に入りきれないような大きな話だ。それで作者は、「本の外まではみ出す絵」を考えた。この人、なかなかのアイデアマンだよ。他の本だけど、「音が出る本」とか「光る本」とか、とにかく「どうやったらもっと子供が喜ぶか」をとことんまで考えてる。変にお説教じみた物語を考えるより、これはずっとすばらしいことだよ。
子供ってのは、大人が考える枠の中には入りきれないことを考えるもんだ。——前に、こういう話を聞いたことがある。小学校で「大好きなものを描く」ようにいったところ、ある子供が画用紙全部を真っ黒に塗りつぶしていた。「あら、そんなことしないで、好きなものを描きましょうね」と新しい画用紙を与えると、それも真っ黒に塗りつぶしてしまう。与えても与えても次々と真っ黒に塗りつぶしてしまう。教師は親に連絡を取り、「心に何か問題があるんじゃ・・」とカウンセラに通わせようとする。・・そのとき、ある人がふと思って、その子が真っ黒に塗りつぶした絵を順番に並べてみた。すると・・、そこには、大きな大きなクジラが描かれていたのだ。
子供は、四角い絵本の中なんかには収まらないでっかいことを、ちっちゃな頭の中で考えてる。絵本ってのは、そんな子供のでっかい思いを、どうやれば少しでもすくいとれるかを考えないといけないんじゃないか。どうも、日本の絵本ってのは、こじんまりとしていて、子供のでっかい心を満足してやれそうにないんだ。エリック・カールは、でっかい。描く絵も、考えてることも、楽しんだりいたずらしたりする気持ちも。子供に一番近いところにいる絵本作家じゃないだろうか。
公開日: 日 - 12月
7, 2003 at 07:24 午後