親のふんどし


・・で世を渡っていながら自分の暮らしを自慢する人の気持ちがわからない。

嫁は、布好きであると同時にインテリア好きである。よく、自宅のインテリアなどをアップしているサイトなどを探しては「は〜、すてきぃ〜」とうっとり眺めたりしている。——昨日も、「ちょっと、パパ! 見に来なさいよ!」と叫び声がするのでいってみると、案の定、どこかの奥様のサイトにある「うっとり」な自宅写真であった。キッチンやリビングの写真を眺めては、目を少女漫画にしている。なるほどな〜、いい暮らししてるね〜とは思うけれど、あんまりそっちに興味がない夫としては生返事するしかない。

・・が。その後しばらくしてこっちが就寝前のメールチェックをしていると、嫁がやって来て「さっきの人、ちょっと嫌いかも」といってきた。——どうやらくだんの家は、その人の父親の家らしい。母親が亡くなって父親一人になったので、家の中をリフォームして一緒に暮らしているようなのだ。それはいいんだけど、リビングからキッチンからリフォームしてあるのに、その父親の狭い一室だけ古いまま放置されていたそうだ。「なんか、読んだ感じだとリフォームのお金も全部父親が出してるみたいだし」と嫁。なるほどね。

古い家といっても築15年ほどでリフォーム前の状態も我が家よりは遥かに立派だったそうな。それを全部父親のお金で壊して自分たちの趣味に合う形にリフォームしたのだろう。リフォーム前のキッチンもそれなりにきれいなものだったらしい。そこは、おそらく亡くなった母親が愛したキッチンだったのだろう。そこは父親にとって亡き妻とのさまざまな思い出があるキッチンだったことだろう。まだきれいで十分使えるそれを壊して自分の趣味に合うキッチンに作り替える・・。

多分、こういう家庭というのは多いんだろうと思う。「こういう」というのは、親と同居したり、二世帯で暮らしたりということではなく、「親のふんどしで暮らしている」ということ。一緒に暮らすのはいいことだと思う、一緒に暮らして親のことは経済的にも全部自分たちが面倒を見るんだというなら立派だ。だが反対に、親の家に住まわせてもらいながら経済的にも親を頼っているような人もいる。あるいは家を建てるにしても、親に頭金を出してもらう(あるいは、まるごと建ててもらう)人もいる。親の会社の重役なんぞに入れてもらって贅沢な暮らしをしている人もいる。親の地盤看板をそのままもらって政治家にしてもらう人もいる。

僕が不思議でならないのは、成人して立派な社会人でありながら、(特に経済的な面で)親に面倒を見てもらうことに何の痛痒も感じないのだろうか、ということだ。若い頃、親というのは「一刻も早くそこから抜け出して一人で生きていきたいと思うしがらみ」だった。とにかく親元から早く逃げ出したかった。親の金というのは、まるで不浄なもの、汚らわしいもののように感じていた。「こんな汚い金で生きていけるものか。たとえ貧乏しても自分の手で稼いだ金だけで生きた方がどんなに気分がいいか」と思って生きてきた。——まぁ、ある意味、極端だったと思う。そこまで嫌うことはなかったな、と今では思っている。けれど、少なくとも「親の庇護から独立したい」と思うのは一人前の人間として生きていく上で当たり前の感覚ではないかと思うのだ。いや、親に限らず、「他人のふんどしで生きていく」ということに忸怩たるものを感じないというのは、どこか神経が狂っていないだろうか?

まぁ、長い不況時代を考えれば、情けないと思いつつも親の援助を受けることはあると思う。人生、色々だ。時には力を貸してもらわないとならない時だってある。ただ、奇妙なのは、そうして親の援助を受けながら、人並み以上に立派な暮らしをし、それを自慢したりするという人間だ。恥ずかしくないんだろうか? 「私は親の金でいい暮らしをしてます」なんて回り中に知れ渡ったら、僕なんぞ恥ずかしくて生きていけない。自分たちの力だけで十分生きていけるのに、ただ贅沢をするために親から援助を平然と受ける、その感覚。なぜ、平気なの?

もちろん、人間というのは一人では生きてはいけない。常に、多くの人の力を借りながら暮らしている。けれど、いや、だからこそ、か。なんとかして自分の力だけで生きていきたいと思うのではないか。自分の力で生きていく。それは人間としてというより、生き物として当たり前に備わっている本能のようなもののはずじゃなかったか。僕はそう思っていた。だが、そういう感覚を持たない人というのも今はたくさんいるようだ。

人それぞれ、そういう生き方もあるんだろう。それらを否定するつもりはない。ただ、ふと思うのだ。そういう親を見ながら育つ子はどんな大人に成長するのだろう、と。「貧しくとも誇りある人間であれ」とは教えられないだろう。少なくとも子供に一人前に成長して欲しいなら、親が一人前でないといけないな、と思うのでした。

公開日: 日 - 6月 20, 2004 at 11:23 午前        


©