オール電化は環境にやさしい?


・・・これ、ほとんど宗教みたいな話になってる気がする。

とあるメールマガジンのコラムに書いたことなんだけど、消化不良気味なのでこっちにちゃんと書いておく。

我が家のキッチンは、「プロニ」というところに作ってもらったオールステンレスのものだ。なぜここにしたかというと、センスがいいのはもちろんだけど、業務用のすばらしいガスコンロとガスオーブンが標準で入れられることがわかったからだ。やっぱり料理はガスだ、というのが我が家の指針なのだ。

が、世間的に見れば、風は「オール電化」に向かって吹いている。今時、「コンロもオーブンもガス(しかも、よりによって業務用)」なんていったら非国民扱いされかねないだろう。少なくとも「環境問題には鈍感な一家」と思われるのは間違いない。

だが、本当にそうなのだろうか。オール電化は、本当に省エネになり、環境にやさしいのか。僕にはそれが信じられない。——そもそもの発端は、「ガスを燃やすのと、一度電気に変換して暖めるので、なんで電気の方が省エネになるんだ?」という素朴な疑問だった。いろいろ調べてみると、エコキュートというヒートポンプ方式の給湯器を使い、深夜電力でお湯を沸かすことで省エネが実現しているのだ、ということがわかってきた。

このとき、ピン!とアンテナが感じたのだ。これは、間違いである。これは、「省エネ」と「光熱費の節約」をすり替えている。まるで「光熱費がかからなくなった=省エネ」というように錯覚させている。どうも臭いぞ、本当のところはどうなんだ?と思ったのだね。

で、いろいろ調べてみたところ——どうやら、「オール電化が本当に省エネになるか」は、専門家の間でさえ意見が分かれていることがわかってきた。調べた範囲内で、ポイントを整理しておこう。

「エコキュート」でなければ省エネではない
オール電化の最大のポイントは「エコキュート」だ。ヒートポンプにより、通常の電気給湯器の数倍もの効率でお湯を沸かすことができるという。そしてそれ以外は——実は、何も省エネなものは「ない」のだった。IHヒーターも、非常に効率的にエネルギーを使えるとはいえ、実はガスとどっこいどっこい。要するに、「エコキュートという稼ぎ頭が稼いだ省エネを、他の連中が食いつぶしている」のが実情なのだ。が、食いつぶしているけどかろうじていくらかは残る。その分が「省エネ」になってはいる、ということなんだな。

ところが、このエコキュートはけっこう高い。そのため、オール電化の半分ぐらいは、エコキュートを使わず普通の電気温水器を入れているのだ。「ガスを使わず、ただやたらと電気を使いまくるだけのシステム」というわけのわからないシステムがオール電化住宅の半分ぐらいあるのだ。

実はエコでもない「エコキュート」
この肝心要のエコキュートの省エネも、実は怪しいことがわかってきた。確かに、効率よくお湯は涌かせる。涌かせるが——それをずっと「保温」し続けなければ行けない。このためのエネルギーロスがバカにならないらしい。だが、深夜電力と、オール電化のための特別な料金体系のおかげで、「猛烈に割安な深夜電力を使いまくる」ことで全体の電気料金は安くすむ仕組みになっているという。——ほら、また騙しにかかってきたぞ。エコのはずが、いつの間にか「料金」の話にすり替わっている。眉にツバつけとこっと。

実際、寒冷地になると保温のためのロスが節約分を上回ってしまい、エコキュートにしたほうが電気代がかかってしまうこともあるのだ。

深夜電力の利用はエコではない
オール電化を勧めるハウスメーカーなどがよくいう科白に、「深夜は電気が余っていて無駄になっている。それをうまく利用するから省エネなのです」というものがある。なるほど、原子力発電は止められないから、使わなくても電気は作られてしまう。その余った分をうまく使うわけだ、これは確かに省エネになる。

が、実はこれは大嘘。深夜の電力需要は、原子力発電による全発電量を軽く上回る。そのため、深夜であっても火力発電所を稼働して足りない量をまかなっているのだ。要するに深夜電力を使うのは「料金体系として、そうするのが安いから」という以外の理由はない。エコでもなんでもないのだ。

海外では危険で販売できないIHヒーター
IHヒーターは、電磁波を発する。これを持ち出すと「また電磁波か。そんなもん、たいした影響なんてないに決まってるだろ」と思うだろう。が、少なくとも「日本の」IHヒーターの多くは、欧米では販売されないという厳然たる事実がある。なぜなら、日本のIHヒーターの多くは、国際基準の十数倍の電磁波を放射しているからだ。欧米のIHヒーターは、ちゃんと国際基準を満たしている。要するに「作れば作れる」のだ。それを、あんまり知られていないからといってほっかぶりしている姿勢はどうなのか。

IHヒーターはガスより効率が悪い?
エネルギー源をどれだけ効率よく熱に変えられるか、それを示すのが熱効率というやつだ。ガスコンロの場合、これは50%。ところがIHならなんと90%もの熱効率となる。非常に効率よく熱に変えられるのだ。「ガスよりIHのほうがエネルギーを使わない」と思う。——はい、間違いです。

そもそも電気というのは、作られる時点で「エネルギー資源の60%をどぶに捨てている」(火力の場合)のである。原子力なら効率はいいが、この原子力というやつ、「この先、できちゃった放射性廃棄物をなんとかするのにどれだけかかるの?」という部分をすべて無視して採算などを考えているので、はたして「原子力で作った電気がどれだけ環境にやさしいか」は誰にもわからなかったりする。となると、これ、本当に「効率的」っていっちゃっていいんだろうか?

オール電化は「節電」してはならない?
オール電化は、作ったエネルギーを最大限効率よく利用して初めて意味がある。たとえば、エコキュートで沸かしたお湯は、翌日の夜までにきれいに使い切ってしまわないといけない。でないと、無駄なお湯を保温し続けることになってしまうから。

そのために、オール電化では、床暖房など電気を使うさまざまなものを追加していくことになる。実際、電気の使用量がもともと少ない家では、オール電化にすると逆に電気代が高くなってしまうこともある。オール電化で得するためには、電気をじゃぶじゃぶ使う、節電しない生活が求められるのだ。——実際、オール電化を導入した家庭では、ほとんどが導入前よりエネルギー使用量は増加している。

ところが! 電気料金は安くなるわけだね。そこで「電気代が安くなった=エコだ」と錯覚するわけだ。違う! エネルギーそのものは逆にもっと消費するようになってるんだ。全然、エコじゃないんだ!

CO2を排出しまくるオール電化
IHにすれば、ガスのようにCO2を排出しません。環境にやさしいんです。これも良く耳にする科白だ。だが、そもそも電気を作るのにどれだけCO2を排出しているの?

大気汚染などの問題は、家庭でガスを燃やしたから、ということでは全くない。その最大の要因は、火力発電所をはじめとする工場や自動車による汚染物質の排出だ。現在、急速に原発などを増やせる状況にはないことから考えれば、オール電化を進めることで「火力発電所をフル操業する」ことになっていく。すべてを電気でまかなうようにすることで、CO2排出量はトータルで増加しているのだ。


——ここにあげた事柄は、もちろんすべて反対の意見もある。先にいったように、本当にエコかどうかは、専門家でさえはっきりとはわからないのだ。これを読んだからって、「そうなんだ」と信じないで欲しい。それは、東京電力のパンフレットを読んで「そうなんだ」と信じるのと同じぐらい愚かなことだ。

僕がいいたいのは、「信じるな」ということだ。オール電化にすれば環境にやさしい。省エネになる。そうした言葉を「信じるな」ということだ。信じることをやめ、「考える」ことを始めるべきだ。1つ1つの問題を自分なりに考え、自分なりの結論を出す。環境問題ってのは、本当はそこから始まるじゃないのか? 国や企業がいってることを疑い、一人一人が自分なりに考える、それが環境問題の始まりなんじゃないだろうか。

ただ……。このことだけは、どうか頭に入れておいて欲しい。オール電化が省エネなのか、本当に環境にやさしいのか、その結論はまだ出ていない。だが、現実問題として「オール電化にすると、それ以前よりも確実にエネルギーの消費量は増大する」のだ。これは、導入したほとんどの家庭で実際にそのような結果が出ている。便利になるから、つい余計なもの(床暖房とかね)まで追加してしまうためかも知れない。ケチケチしても電気代は変わらないからついじゃぶじゃぶお湯を使ってしまうからかも知れない。何が原因かはそれぞれの家庭で異なるだろう、だがほとんどのオール電化住宅では、オール電化前より確実にエネルギーを余計に消費するようになる。それは、確かなことなのだ。

オール電化は、環境にやさしくないかもしれない。導入を考えている方は、そのことをどうかあなた自身でもう一度よく考えてみて下さい。「懐にやさしい」ものが「環境にやさしい」かどうか、それは別の問題なのです。

公開日: 木 - 8月 23, 2007 at 11:52 午後        


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