酔った勢い


・・で現行犯逮捕ですか。

自民党の中西一善衆議院議員が、六本木の路上でいきなり女性に抱きつき、服の中に手を入れて胸を触り、強制わいせつの現行犯で逮捕された、というので騒ぎになっております。7月に都議選が控えているということで、自民党にはかなりのショックだったみたいだ。野党はここぞとばかりに騒ぎ立てるし、自民党もこれは除名して辞職させる、要するに切り捨てるしかないという感じになりつつあるようだ。

・・こういうことをいうと絶対に叩かれるのはわかってるんだけどねぇ、なんというかこの中西という議員、ちょっとかわいそうだなぁと思ったりするのでした。本人は、事件当時、相当に酔っぱらっていたらしい。これが、例えば事務所で職員や陳情相談に来た女性を無理矢理・・とかいうことなら、立場を利用した悪質な事件と考えられる。だけど、路上ですよ・・。たまたま見かけた女性(しかも男連れ)にいきなり抱きついて、ですよ・・。こりゃ、「酔っぱらい」以外の何者でもないと思わない?

そりゃ、もちろん悪いことですよ。そんなことしちゃダメですよ。だけどさ・・。例えばね、あなたの会社が「酔っぱらって女性に抱きついて胸を触ったりしたら、懲戒免職が当然」というところだったらどうします? 別にいい? そうかなぁ・・。なんちゅうか、「安心して酒も飲めない会社だよな」とか思わない? 窮屈な、息苦しいところだよな、って。もちろん、「酔ってれば罪にならない」とかいうのでなくてね。酔っぱらってても、悪いことは悪いことですよ。そりゃあそうよ、もちろん。だけど、つい、気が大きくなっちゃって羽目を外すやつってのはいるもんだよね。その懲罰が「辞職」ですか・・。そこまで重いものなのかなぁ・・。いや、別にこの人を擁護するつもりは全くないんだけどね・・。

前にも書いたと思うけど、なんだって人は、当然のことのように、他人に「完璧な人間」であることを要求するのだろう。政治家、芸能人、スポーツ選手。有名な人になると、決まって「何もかも完璧な、仙人のような人間」であることを求める。——例えばね、政治家が、どっかから賄賂やリベートをもらったとか、私利私欲のために活動していたとか、選挙で不正を働いたとか、そういうことであれば、それは容赦ないと思うよ。なぜって、それは「政治家たる資質」に関わる問題だから。政治家として「それをやっちゃあおしまいでしょ」ということなんだから。だけど「酔っぱらって女性の胸を触った」というのは、そういうこととはちょっと違うでしょ。

「いや、政治家なんだから、どんな小さなことであれ許しちゃいけない」ということなのかも知れない。なるほど、それが原則なんだというならそれはそれで一つの考え方だよ。では、そうやってわいせつ議員を問題にする一方で、不正な献金を受けたり、有罪判決を受けながら再び選挙で当選して議員に戻ってくる人間がそのまま平然と議員を続けているのはどういうわけなんだ? 「政治家はかくあれ」と立派なことを言っておきながら、人によってその態度を変えてはいないか?

なんというのかなぁ、「こいつなら勝てる」と思った人間に対しては集団で袋だたきにする、「こいつは勝てないかも」と思った人間には当たらず触らず見ない振りをする、そういう感覚がどうもイヤなんだ。ただ、それだけならまだ我慢できる。我慢できないのは、そうした態度を取りながら、一方で「我こそは正義の味方」といわんばかりの得意顔を振りまいていることだ。

・・どうも僕は、この「正義漢」というやつが嫌いなのかも知れない。正義の味方を騙る人間という奴が。酔っぱらって胸を触った国会議員よりも、自分だって酔ってホステスに抱きついたりする人間でありながら、さも「自分はそんなことはしない」かのような顔で相手を糾弾する人間の方が僕はキライだ。

僕は、そこまで前後不覚に酔っぱらったことはないけど、若い頃には、酔って全く知らない家の玄関をどんどん叩いて「開けろ!」と怒鳴ったり(自分の家と間違えておりました、はい・・)、タクシーの中で「おえ〜っ」とやったあげくにタクシー代を払わず去ってしまったこともあった。大変、大変申し訳ないことであります。今となっては深く深く反省しております。・・だから、僕にはこの議員を糾弾する資格はない。一体、どのツラさげて彼を糾弾しろというのだ? とてもじゃないが、僕には恥ずかしくてできないよ。

彼を糾弾するのはかまわない。だけど、どうか「今まで酔っぱらったことのない人間」だけ、彼を糾弾してください。「罪なき者のみ、この者を石もて打つべし」——それが社会の基本じゃない?

公開日: 木 - 3月 10, 2005 at 04:18 午後        


©