黄門さまの末裔
を名乗る詐欺師さんがつかまる。血筋をありがたがるお客さんがいればこそ、の詐欺だね。
変なニュースがあった。「徳川光圀公の子孫と名乗り、知り合った55歳の女性から500万円をだまし取った57歳の男が、詐欺容疑で逮捕された」という。なんでも北海道にある土地を36億円で売却するのにかかる印紙代500万円を貸してくれ、後で1000万にして返す、といってだまし取ったらしい。その女性は、知り合いから「水戸黄門の子孫というすごい人がいる」と紹介され、すっかり信じてしまったのだと。「水戸黄門の子孫=すごい人」と紹介してしまう知り合いも知り合いだが、信じる方も信じる方だよ。
時々、こういう「妙な詐欺」というのが新聞紙面をにぎわせるんだけど、正直、多くは「なんでそんなのに騙されるんだ?」と首をひねりたくなるものだったりする。この事件もそうで、まぁ騙したやつが悪いのは確かなんだけど、「これで騙されるほうも悪い」という感じがしてしまうのは僕だけなんだろうか。だって、「水戸黄門の子孫」というだけで、知り合ったばかりの人間に大金を渡しちゃうって、そりゃああんた、迂闊すぎでしょ!とか思わない? そもそも36億の土地を持ってる人間が500万円工面できないわけないでしょうが。固定資産税、いくらかかると思ってんの。
もう、わざわざ言葉にするのさえバカらしい当たり前のことなんだけど、「水戸黄門」と「水戸黄門の子孫」は全くの別人である。そんなことはわかりきってることだ。が、これが「水戸黄門の子孫と、水戸黄門は何の関係もない」というと、「え? 関係ないわけないじゃん」と思う人は多い。そりゃ「子孫と先祖」という関係はあるけど、人間としては全くの無関係だ。水戸黄門がどんなに偉かろうが立派だろうが、そんなことは子孫の人間とは何一つ関係ない。——はずなんだけど、このあたりになると「いや、そんなことはないだろう。やっぱり黄門さまの子孫なんだから、人間的にもなんたらかんたら」といい出す人はけっこういるはずだ。
親から子に受け渡せるもの、それは「血」ではなく「育ち」であると思う。育ちってのは「○○さんは育ちがいいわねえ」という、あの「育ち」ね。つまりは「育まれた環境」だ。確かに、いいとこの坊ちゃん嬢ちゃんであれば、いい環境で育ち、いい人間に成長する確率は高いのだろう。だが、もちろん全くそうではない環境でありながら立派な人間に育つ人もいれば、いい環境で育ちながらろくでもない人間になる奴だっている。——ところが、けっこうな数の人たちは、親から子に受け渡されるのは「環境」ではなく「血」だと思っている。「○○家の人だから立派だろう」的な見方をする。それが、こうしたバカげた詐欺事件を引き起こす。
・・まぁ、これみたいな「わかりやすい詐欺」なら、僕らも笑ってニュースを読める。まさかこんなものに騙されることもないだろう、と思いながら。だが世の中には、もっと知恵のある人間が、合法的に金を人々から巻き上げていたりする。——この事件を見て、ふと「じゃあ、本物の水戸徳川家の子孫はどうなってるんだ?」と思って検索してみた。現主は、徳川斉正さんという方らしい。この人、何やってんだろうと思ってみてみたら、「財団法人
水府明徳会会長」となってる。なんじゃ水府明徳会ってのは?と思ってみて見ると、これはどうやら水戸徳川家由来のものなどを集めた博物館の運営とか、光圀公の別荘(?)だった西山荘の管理なんかをやっているようなのだった。では徳川宗家の子孫は?と思って調べてみると、現主は徳川恒孝さん。この人は、これまた「財団法人
徳川記念財団」の理事長なのだった。うーむ。
徳川記念財団はまだできたばかりなので収支はわからないけど、水府明徳会の平成15年度の収支は当然の如く赤字。まぁ、これらの財団法人がどういう活動をしているのか明確なところはわからないので断定はできないけれど、どの活動内容も「どっかの博物館や美術館でもやれること」のように思えてならない。こうして「頭のいい人間」たちは、合法的に誰に文句をいわれることなく地位や名誉や財産を得ていく。こういう姿を見ていると、かの詐欺師さんのほうがいっそかわいらしく思えるのは気のせいか。
黄門詐欺師さんも、なんたら財団のお偉いさんも、「血筋をありがたがる人間たちからお金を吸い取って生きている」という点ではたいした違いはないんじゃないか。ただ違いは「本物は合法的に金をとれるが、偽物はつかまる」ということだけではないのか。——いつまでこういうのが続くのだろうね。「血」をありがたがる感覚というのが。早いとこそんなものが消えてくれれば、と、由緒正しいどん百姓の血筋である僕は思うのでした。
公開日: 木 - 1月 6, 2005 at 03:12 午後