日本人って、誰のこと?


どういう人間が日本人だと考えているんだろう。

タイで両親と死別して、祖母を頼って日本にやってきた吉田メビサちゃんが定住資格を求めていた問題で、法務省は「就学目的に限定し、1年間の滞在延長を許可する」という、普通の感覚からすれば「ものすごく偉っそ〜な態度」を表明しておりました。就学のため1年だけ、ということは、来年にはまた「もう1年お願いします」と同じことを毎年繰り返さないといけないということだろうか。あるいは、ほとぼりが冷めてマスコミも報道しなくなったところでとっとと追っ払いたいということなのか。既に祖母と養子縁組までしているそうだし、本国では両親も亡くなっていて暮らせないから日本までやってきたのだろうに。

先週末の新聞では、入管に身柄拘束されていた元チェス世界チャンピオンのボビー・フィッシャー氏に、アイスランドが永住査証(ビザ)を発給するというニュースもあった。これで、日本政府が出国を許可さえすれば、アイスランドで暮らせることになるわけだ。アイスランドという国の粋な計らいに感謝するとともに、「まだ入管で身柄拘束され続けていたのか」ということに驚く。一体、なんだってそこまで一人の人間の身柄を拘束し続けることにこだわるのか。これが、例えば日本国内で犯罪を働いたとか、国際的な犯罪組織の人間だとかいうのであればわかる。ごく普通に暮らしていた人間をなぜそこまでしないといけないのか。

法務省の人間に訊きたい。あなた方のいう「日本人」とは、一体、誰のことなのだ?と。日本の国籍を取り日本で暮らしたいと願う中学生は、日本人になる資格はないのか、と。

——おそらく、彼らはこういうだろう。「日本国籍を取得するためには、国籍法で条件が決められている。だから、条件を満たさない人間は国籍を取得できないのだ」と。その通り、確かに国籍法で日本国籍を取得するための条件は決められている。だが、現時点で「日本の国籍を取得し、日本で暮らしたいと願っているのにそれができない人間」という問題がいくつも起こっている。であるならば、「このルールは、現状にそぐわなくなったので修正してくれないと困ります」と考えるのが普通だろう。既に実情にそぐわなくなっているルールを「ルールだから」と守り続ける意味が全くわからない。みんなが決めたルールなんだから、あわなくなったらみんなで変えればいい、それだけのことじゃないか。

そして。確かに国籍法によれば決まった条件を満たさないと国籍は取れないことになっている。が、実は「条件を満たさなくても国籍を取ることができる」ようにもなっているのである。そのことを、なぜか関係者はみんな黙っているよね。

国籍法第9条「日本に特別の功労のある外国人については、法務大臣は、第5条第1項(国籍取得条件)の規定に関わらず、国会の承認を得て、その帰化を許可することができる」

この「特別の功労のある外国人」というところがミソである。どういう人が「特別の功労のある」人なのか、という決まりはない。つまりは、政府が「この人は特別な功労があるだろう」といえば、それでオッケーなのだ。ということは? 偉い人やら金持ちやら政治家の知り合いやらといった人間は、うまいことやれば国籍は取れるようになってるのだ。

——メビサちゃんは、「特別の功労のある外国人」とはならないのか。「当たり前だろう」って? そうだろうか。タイから日本を頼ってやってきて「ぜひ、この国の人間となってこの国で暮らしたい」と訴える中学生の少女である。その姿は日本中のみならず海外にも報道された。これほど「日本という国の宣伝」に役立った少女はそういないんじゃない? もし、国が特別に国籍を取得させれば、「あぁ、日本という国はなんて寛大な、温情ある国なんだ」と多くの人々が思うだろう。国連機関などから「人権意識の低い国」と名指しで非難されている日本にとって、汚名返上の絶好の機会を彼女はもたらしてくれたわけだ。となれば、これは十分に「特別な功労」でないの?

現行法でも、そういう「抜け道」を使えば、救済する術はあるのだ。であるのに、なぜ救済される人間がいないのか。それは、法を遂行する側に、「人々を救済しようという気」がまったくないからだろう。特に国籍法に関する限り、政府や公務員は、「とにかく日本国籍を取得する外国人を一人でも減らすこと」が自分の職務だと思っているようなところがある。それはなぜなのか。

大変信じたくないことだが、政府や、財界や、官僚や、そうした世界のトップにいる人間たちの間では、未だに「日本人純潔神話」のようなものが根強くはびこっているという。「外国人の血を大和民族の中に入れるな」という誇大妄想的な考えを持っている人間が未だに多くいるという。ほんまかいな?と僕などはそのあまりの時代錯誤ぶりに唖然呆然するしかないのだけど、ほんとにいるらしいんだよ、そういうバカものたちが。

しばらく前に、曽我ひとみさんの娘さんたちが日本国籍を取得したと報道された。——かたや「親が日本人だから」というだけの理由で、日本で生まれてもおらず、日本に暮らしたこともなく、日本語も喋れず、日本の文化も全く知らない(下手をすると、日本を敵視する考え方しか知らない)人間であるのに、本人が日本人になりたいか否かということとは無関係に勝手に無条件で国籍が与えられる。かたや、祖母は日本に暮らしており、養子縁組もしており、日本にやってきて既に生活をしており、日本語もある程度喋れるようになり、日本の友達もたくさんいて、日本という国で暮らしたいと願っている人間に「親が日本人でないから」というだけで国籍が与えられない。

日本人ってのは、一体、誰のことなんだ? 「血」がすべてなのか? そもそも、建国から現在に至るまで日本が「大和民族だけの国」だったことなど一度たりともないのに、なんだってそこまで「血」にこだわるのだ。既に日本には「大和民族の血」なんぞ一滴も入っていない日本人が多数存在している。「民族の純血」なんざ(もとからありはしないけど)とうに失われているのだ。

もうそろそろ、この「血」なんてものをありがたがる感覚を日本からなくしていかないと、ほんとにまずいんでないか。この先、日本の人口は減る一方だ。海外から若い血が入らないと、ほんとに日本はヤバいことになる。「日本人とは誰のことか?」を、みんな改めて考え直す時期に来ていると思うのだ。


ちなみに。「わしの躰の中には一滴たりとも大和民族以外の血は混じっとらん!」などといいはるぼけ老人の方。あなた、病気で入院したことあります? 血液製剤、あれ、外国人の血でできてるのがけっこうあるんですが・・。もし、この先、入院するようなことがあったら、どうしましょう? 外国人の血が入るくらいなら死にますか。それとも、大和民族以外の血をもらっておめおめと生き延びますか。今のうちから考えておかれてはいかが?

公開日: 月 - 12月 20, 2004 at 05:17 午後        


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