注意力散漫なワタクシ


どうも集中力がない、といわれる。けれど、ないのは「どういうタイプの集中力」なんだろう。

暑い。こうなるとなかなか仕事に集中できない。僕の仕事場は昨年まで扇風機のみだったのだけど、嫁の「そのうち死ぬわよ」という圧力にやむなく今年から冷房機器を導入することとなった。ただし、エアコンはどうしても苦手なので、部屋置きのミニクーラーのようなものだ。これを出窓において、熱気は窓の外に逃げるようにしてある。冷風扇などに比べれば涼しいのだけど、35度を超えるような暑さとなるとさすがにこれだけでは弱い。

が、集中力の低下は、暑さや年のせいだけでもないような気がする。思い返せば、もともと僕には「集中力」なんてものはなかったんでないだろうか。——僕は、とにかく注意力が散漫である。ご飯を食べているときにぼろぼろこぼしたり、食後の荒いものをやっているとあちこちに洗剤を飛ばして嫁の仕事を逆に増やしたりする。そういえば自動車の教習所でも「もっと全体をまんべんなく注意して!」といわれた。どうも何かをやっていると、回りに注意が向かなくなってしまうらしい。

それじゃ集中力が皆無なのかオレは・・というと、うーん、そういうわけでもないような気がするのだ。例えば、「ここ一番!」というような修羅場になると、絶対に無理な量の仕事をこなせたりする。丸一日で、原稿用紙にして500枚の原稿を書いたこともある。ま、今やれといわれても絶対無理だけど(笑)、集中力がまったくなければ不可能だろう。——逆に、正反対のこともできる。つまり、「まったく集中できないのに仕事が進められる」ということ。既に書く内容が頭の中で出来上がっていると、まったく集中できないでぼ〜っとした状態でも、原稿が書けてしまったりする。

どうも僕の頭の中というのは、起きている間、常に一定速度で回転している、いわば「アイドリング状態」になっているらしい。何も考えずぼんやりした状態でも、常に何かしら勝手に頭が考えているような感じなのだ。そのため、アクセルを踏まなくてもある程度の速度で思考が動く。ただし、常に50%ぐらいは動いているので、残りの部分を複数に分けて使ったりするのがとても難しいのだろう。うーむ、そうだったのか(笑)。そういや、昔から「何も考えてない」状態というのがどういうことかよくわからなかった気がする。だって、「考えてない状態」なんて、起きている限り、ないんだもの。

そこで、はたと気がついたのだ。集中力と一口に言っても、種類が違うのだ、と。僕の集中力は、「一つのものだけにすべてを集中する力」なのだ。他の全ての入出力を断って、完璧に一つのことだけに集中することだね。それに対し、僕が苦手とするのは「全体をまんべんなく注意する力」だ。要するに、僕の頭はシングルタスクなのに対し、他の多くの人はマルチタスクなのだ。

——そう考えれば、なんとなく納得できる。そういえば、僕は仕事のときに音楽などを一切かけない。たいていの人は、好きな曲を聴きながら仕事をしたりできるのだろうけど、僕はそれができない。音楽が流れていると、そっちに注意が向いて仕事ができないのだ。洗い物で洗剤をあちこちに飛ばすのも、洗い物をしているとそれだけに神経がいってしまい、他のことがまったくすっ飛んでしまうのだ。

何かをしながら同時並行的に何か行なえる人と、一つのことをはじめると完璧にそれだけに注意がいってしまう人。人というのは、けっこうこのどちらかに分かれると思う。そして、今の時代はどうしても「同時並行的に複数のことを行なえる人」のほうが優れているように思われがちな気がする。あれをしてこれをしてそれをして、どれも卒なくこなせる人。確かにそういう人間になれればいいよなぁ、と僕などは思う。

が。何かをはじめたとき、そのこと以外のすべてを自分自身でシャットアウトする人間というのも中にはいる。何かに集中したとき、僕は回りのことが何も見えなくなり聞こえなくなる。今はだいぶ衰えたけど、若い頃は仕事に集中するとキー入力と頭の思考だけが直結して他の要素が完全に自分の感覚から消えてしまい、「自分が何か考えると、それがそのままパソコン画面に表示される」ようなトランス状態になったことがよくあった。手がキーを叩いている感覚が全く消えてしまうのだ。こういうトランス状態っていうのは、マルチ入力な人にはちょっとわからない快感だろう。

本当は、両方を兼用できればいいんだと思う。普段はマルチ入力な人間で、ここ一番、集中しないと!というときには完璧に一つのことに集中できる、そういう人間。でも、人間ってのはなかなかそううまい具合にはいかないものだ。

が、完璧にそうするのは不可能ではあるとしても、似たようなことが行なえるようになることはできるんでないか。僕の場合、今試みているのは「集中する対象を短時間で切り替える」ということ。いわゆるタイム・シェアリング・システムだ(笑)。例えば、複数の仕事があったら、10分ごとに「次はこれ」「次はこれ」と切り替えながら集中を途切らせずに進めるわけ。同時に複数の仕事はできないけれど、結果的に複数の仕事を平行して進めることができるはずだ。——車の運転も、「5秒ごとに両サイド」「10秒ごとにミラー」と頭の中で唱えながら運転している。一度に全体は見られなくとも、こうして一定間隔ごとに周囲をチェックすることで似たようなことができるようになるんでないか?と思うわけ。

「ない才能」を欲しがるのはよそう。「ある才能」をうまく使いこなすことで、たいていのことには対処できるんでないかと思うのだ。新たな才能を欲しがるのは、その後からでも遅くはないだろう。

公開日: 水 - 8月 18, 2004 at 06:50 午後        


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