頑張れ裁判官!


まだ世の中には真っ当な裁判官が残っているのだろうね。少しだけほっとした。

昨日のことになるけど、罪状からすれば非常に小さい、とるにたらない事件だけれど、個人的にけっこう注目していた事件の判決が出た。それは、自衛隊のイラク派遣に反対のビラを自衛官宿舎で配り、住居侵入罪で逮捕された市民団体のメンバーへの判決だ。この事件は、個人的にはかなり怖かった。「自衛隊派遣反対!」のビラを配っただけで逮捕されてしまったのだ。「ビラを配るために無断で敷地内に入った」ということで住居侵入罪に当たるとして、だ。そりゃ、ビラをポストに入れようとするなら敷地内に入る他ないだろう。まさか紙ヒコーキにして「えいやっ」とポストに飛ばすわけにもいくまい。つまりは、「おかみの気に触ることをするやつは、たとえ『ビラまき』であってもこうやって逮捕できるんだぞ」ということを世の中に知らしめたかったんではないか?と僕などは考えてしまうのだ。

で、肝心の判決だが、当然というかいうまでもなくというか「無罪」だった。——ビラは内容、表現、ともに過激ではなく、一つの政治的意見。ビラまきは憲法21条の保障する政治的表現活動であり、商業宣伝ビラよりも優位的地位にある。商業ビラが放置されているのに、被告らをいきなり検挙し刑事責任を問うことは、憲法の趣旨に照らして疑問である。・・よかった。まだ、司法にはそれなりの良識が残されていたようだ。まぁ、正直いって、最近は司法判断でも「ああ、結局は彼らも国家の狗か」と思うこともないわけではなかっただけに、ほっとした。「やる必要など全くない捜査や検挙を警察側は行なっていた」ということを判決でははっきりと示してくれたわけだ。

一方で、今日は明石の歩道橋圧死事件の判決なんてのも出ている。こっちでは、明石署の現場責任者だった人間などに実刑の判決が出た。判決文では「明石署長が警備を軽くする方針を示した」「事故が起こる危険性を軽視し安全対策を怠った」とし、責任のかなりの部分が当時明石署の署長だった永田裕元署長にあると責任の所在を明確にしていた。つまり、こちらは「警察はやるべきことを全くやっていなかった」ということをはっきり示してくれた。これまた実にすばらしい判決だ。まだまだ、世の中には真っ当な裁判官がいる。そう思えただけでもよかった。

——が。実はこの裁判には大きな穴がある。判決で名指しで「お前に責任がある」といわれた永田裕元署長は、実は被告席にはいないのだ。検察側が「不起訴が相当」として起訴しなかったのである。起訴されてないんだから、裁判でいくら「こいつが悪い」といわれても、この元署長はな〜んも「おとがめなし」ってわけ。——実刑を受けたのは、署長ではなく、現場の責任者だけ。トカゲの尻尾が何本か犠牲になっただけだ。実はこの元署長は不起訴が決まったときに「これはおかしいぞ」と、検察審査会(検察による起訴・不起訴をチェックする機関)により「起訴相当」という議決を受けていたのだけど、検察は「再捜査の結果、やっぱり起訴する必要はない」としてこの議決を無視して不起訴にしていた。で、今度は裁判長から「こいつが一番悪い」と名指しでいわれてるわけだ。——この元署長、さすがに居心地が悪くなったのか、その後、依願退職している。依願退職ってことは「自ら辞める」わけで、なんのお咎めもなく、もちろん退職金もすべていただける。ほとぼりが冷めたところで、どこぞに天下りで再就職というわけですかい。いやー、兵庫県の警察、検察の内部ってのがどういう代物か、これでよくわかった気がするよ。

どうも最近、警察という組織が「国民のために取り締まる」のでなく「(国家のため)国民を取り締まる」ようになってきつつあるように感じるのは気のせいだろうか? 「例えば、どこがだ?」と聞かれるとぱっと出てこないのだけど、新聞などを読んでいて、なんとな〜くそう感じることが増えて来たような気がするのだ。国旗・国歌法案。自衛隊の派遣、非常事態対策基本法。少しずつ「国民は国家のために」的な空気が醸成されてきている。そんな中での「ビラ巻き逮捕」だった。逮捕された3人は事件の前から公安によりマークされており、逮捕後は2ヶ月半もの間拘留され、取り調べられた。ビラまきだよ? たかが「ビラまき」で、2ヶ月半も代用監獄に放り込まれ、朝から晩まで取り調べられるんだぞ? 取り調べといっても大半は「思想の転向」を迫るようなものだったという。転向。こんな言葉が現代の警察関係で再び日の目を見ようとは。想像しただけで背筋が寒くなる。

組織というのは、常に「上から下へと物事が伝わる」ようにできている。末端で何かの変化があるとき、それはまず間違いなく「上からの意向」によってそう変化しているのだ。警察という組織もしかり。警察の活動方針が少しずつ変わっているのだとすれば、それは必ず「上がそうしてほしいと思っている」からだ。警察の上とは、すなわち国家であり、現在の日本の行政を動かしている人間たちである。そう考えるのは果たして間違いだろうか。深読みのし過ぎだろうか。

少なくとも今は、あまりに妙ちくりんな逮捕や抑留は、正常な頭を持った裁判官によって「バカなことはするな」とやめさせることができるようになっている。まだ、少なくともそれなりの割合で、市民の側にたった司法関係者は存在する(と僕は信じたい)。既に警察は、市民の見方ではなくなりつつある。事件や事故なんかについてはまだまだ警察は信用できる(と思いたい)が、少なくとも「国の意向に従わない人間たち」については、警察は何ら頼りにはならない。いや、むしろ「敵」になりつつある。

裁判官よ、頑張ってくれ——と願わずにはいられない。彼らが国の言いなりになったら、もう歯止めは利かなくなるだろう。真っ当な判決を出せる裁判官がいかに貴重な存在か、そういうことをつくづくと感じた判決でありました。

公開日: 金 - 12月 17, 2004 at 05:12 午後        


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