「便利」の意味


インターネットは便利だ、といわれる。けど、「便利」の意味をはき違えてはいない?

プログラミング関係の本を書いたり入門講座をホームページにおいたりしている関係から、僕のところには見知らぬ人から質問のメールがよく届く。もちろん、本の読者から内容について質問があったり、入門講座の利用者から説明に関する問い合わせがくるのはわかるんだけど、中にはかなり不思議な問い合わせも届く。

今までで一番不思議だったのは、全く知らない人の書いた本についての質問を僕に送って来た人だ。「著者がホームページやメールアドレスを公開していないので代って教えてくれますか」ということらしいんだけど、さすがに聞いたこともない本の中身に関する質問など答えようがない。なぜ、僕ならわかると思ったのだろう? まぁ確かにコンピュータ関係の本の著者というのは読者を大切にしない人が多く、自分の書いた本に関する問い合わせさえ全て拒否している人が大半だ。そういう態度もどうかと思うけど、だからといって「じゃあ質問を受け付けている人に聞こう」と赤の他人である僕に振られても困る。SONYの社員に「同じ製品作ってるからわかるでしょ?」とナショナル製品の問い合わせをされても困るだろう。

今日も、なかなか面白い質問に出会った。といっても、僕宛にメールで送られたわけではなくて、とある掲示板に匿名で書き込まれていたもの。学校の課題で素因数分解のプログラムをPascalで書かないといけないらしくて、「これを教えて下さい」というのだ。数日前に書き込んだらしいんだけど、その後全く返事がなくて(そりゃそうだ)、半分キレた感じで「もう一回だけいいます!!!!」とびっくりマーク満載で同じ質問を書き込んでいた。「マジで誰かこれがどういうプログラムになるか教えてください」と、かなり怒り気味で書き込んでおられました。いやー、おもしろいねえ。

なぜ、インターネットで質問すれば、必ず誰かが自分の答えを教えてくれると思えるんだろう? まぁ、中には親切な人がいて、ヒントとなる考え方や参考になるサイトぐらいは教えてくれるかも知れない。けれど、「はい、これが答えです」とプログラムを書いて教えてくれることはまずないだろう。だって、学校の課題だよ? 自分で解かないでどーするの。答えを教えてどーすんのよ。それじゃあ意味ないじゃん。

(ちなみに、かわいそうなので解き方のヒントぐらい教えてあげようと思ったんだけど、2回目の書き込みがかなり切羽詰まった感じだったので、面白そうなので放置してみることにした。(←外道))

それにしても、「便利」という意味をどこか錯覚している人が多いのには驚く。便利というのは、面倒な作業をより効率的に処理したりすることであると思う。要するに「自分がやるべきことの手助けをしてくれる」ことであって、「自分の代りに誰かがやってくれる」ことではない。それは「ベンリ」ではなく「サボリ」というのだ。そんな好都合なことが世の中まかり通るわけがない。それぐらいは誰だって考えればわかりそうなものなのに、「インターネットは便利だ」と思ってか、あるいは「便利」の意味を勘違いしてか、「自分の代りにこれを誰かやってくれ」といった人間がごまんといる。なぜ、自分と縁もゆかりもない、面識すらないあんたのために、誰かが時間と労力をかけて何かをしてくれると思えるんだろう? 「インターネットは便利」というのは、そういう意味じゃないよ? それぐらい、常識ある人間ならわかるでしょ?

自分で何かをやりたい、こういうことを調べたい、こういうものを作りたい、そう思う人にとって、インターネットは便利だ。それを実現するためのヒントや情報が山のようにある。なぜ、そうした情報があるのかといえば、それは「同じように何かをやろうとした先達が同じことでぶつかり悩んだ結果」であるのだ。自分の知り得た知識を後から続く人のために公開する——インターネットの波間に浮かぶ情報というのはそういうものなのだ。何かをやろうと思う人にとって、インターネットはやさしい。

だが、人の努力の結果を横からさらって自分の手柄にしようとする人間に対しては、インターネットは厳しい。バーチャルだろうがリアルだろうが、世間は厳しいものなのだよ、学生さん。

公開日: 金 - 7月 2, 2004 at 03:32 午後        


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