我、思う? 我、考える?


思ってるの? 考えてるの? うーん、どっちだ?・・っていうこと、ない?

東京の都立高校で、2007年からボランティア(「奉仕」だって)が必須科目となることが決まったそうだ。うーむ。ボランティア自体は悪いことではないけど、それを必須科目として強制して行なわせるのはどうなんだろう。果たして是か非か。というようなことを考えていたんだけどね。そのときに、ちょっと面白い体験をしたのだ。

たいてい、物事を考えるときは、その対象を自分がどう考えるか、ということに目を向ける。で、そこから他者へと視点が広がるわけだね。要するに「自分→他者」という形で思考が進むわけだ。ところが、今回、あれこれ考えているときに、そう考えていない自分に気がついたのだ。それというのも、話が「都立高校」だったため。

都立高校ってことは、東京都がそう決めたってことになる。で、頭の中で考えているうちに、いつの間にか「東京都がそう決めたんだから、それは悪いことに違いない」という観点から考えようとしている自分に気がついたのだ。——とにかく、このところの東京都の(特に教育や学校に関する)方針というのは不快なものが多い。たいていはこっちの神経を逆撫でする。国旗国歌の強制もそうだし、中高一貫校に「新しい歴史教科書を作る会」の教科書を採択したり、園遊会で東京都教育委員の米長のおっさんが「日本中の学校に国旗を掲げ国歌を斉唱させるのが私の仕事です」といって天皇陛下に「やめとけ」とたしなめられたり(だいたい、東京都の教育委員がなんで「日本中」に命令できると思ってんのだ?)、とにかく最近の東京都はやることなすこと変だ。

どうやらそのせいで、「東京都が決めた→変だ」というのが刷り込まれて、いつの間にか「東京都が決めたこと→変に決まってる」と考えるようになっていたらしい。だから、「ボランティアを必修にすることがいいか悪いか」ということを考えるより前に、「東京都が決めたんだから、これは間違いに決まってるはずだ」と頭が勝手に判断して、なんとかして「悪いところ、問題のところを探そうと思考している」のに気がついた、というわけ。これじゃあ「他者→自分」じゃないか。自分以外の人間の考えから自分の考えが決められることになってしまう。——いやぁ、まったく人間の脳っていうのは面白い働きをするもんだ。ひゃ〜、危ない危ない。そんなものを「自分で考えたこと」だと錯覚するとこだったわ。

人間の脳っていうのは、時々そういうおかしなことをやってくれる。「それが正しいか誤りか」ということと「それが好きか嫌いか」ということを本人が気づかないうちにぱっとすり替えてしまったりする。「考える」と「思う」は全く違うのに、僕らはどちらも「似たようなものだ」と思って(考えて?)いる。自分で意識しないと、両者の違いに気づかないまま通り過ぎてしまったりするのだ。

世の中の出来事というのは、「完全に間違い」「完璧に正しい」ということなんてあまりない。たいていは「正しいところもあるけど間違ったところもある」というもんだ。だからこそ、その両者をつき合わせてよりよい方向を模索するわけだ。——ところが、そういう「正しい」と「間違い」の両方を含んでいるものだから、意識して「どっちかだけ見る」ことで意図的に「正しい」か「間違い」か決めることができてしまう。頭から「こいつは好きだ」と思っていると、正しい面だけが目に入り、「ほーら、こいつは正しいんだ」と思えてしまう。最初に「こいつはキライだ」と思えば、間違っている面だけが思い浮かんで「ほら見ろ、間違ってるじゃないか」と簡単に思い込める。

それは実は「考えた」のではなくて単に「思った」だけなんだけど、僕らは割と簡単に「思った」ことを「考えたんだ」と納得させることができる。なにしろ、それらしい理由は後からいくらでも出てくるんだから。「そうでない理由に目をつぶる」だけで、実にすんなりと自分の意見を正当化できる。「オレはちゃんと考えてそういう結論に至ったんだ」と思い込める。

その結果が正しいか間違いか。そういうことだけでなくて、自分は「考えた」のか、それとも「思った」だけなのか、ということをたまにはちゃんと検証してみないといけないな。と思ったのでした。(←考えろよ)

・・ちなみに、ボランティア必須の是非についてなんだけど。自分なりに「考えた」つもりの結果では、やっぱり賛成しにくいなぁ。なにより高校というところで「学業」だけでなく「人格」までも教える、という感覚にどうも危ういものを感じてしまうのだ。ボランティアは「助け合い」であり「自主性」のものであり「お互いのことを考え合う」ものだ。それを「上の命令に下の者すべてならえ」という方向を目指す東京都でやるってのは矛盾してないか。・・うーん、やっぱりどうしても「東京都だから」ってのから離れられないみたいだねえ。

公開日: 木 - 11月 11, 2004 at 06:35 午後        


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