上昇志向?


イギリスでチャールズ皇太子が、またバッシングされとります。

ちょっと面白いニュースがあった。——イギリスで、チャールズ皇太子が「時代遅れの教育観をしている」とバッシングされているというのだね。ことの発端は、皇太子公邸を不当に解雇されたとしてある女性が訴えてた公判。そこで、その女性が雇用身分の昇格を求めたことに対し、チャールズ皇太子の直筆のメモが証拠として提出されちゃったのだ。そこで、こんなことを書いていたのが暴露されちゃったのだ。

「みんな一体どうしたというのだ。なぜ、自分の能力以上のことをする資格があると思うのか」
「まるで、みんながみんなスター歌手や、最高裁判事や、素晴らしいTVキャスターになれると思っているみたいだ。天性の才能があるわけでもない、努力するわけでもないのに」

・・で、これらの発言が、「皇太子は、いかにも階級社会にとらわれていて、人々の上昇志向を押さえつけている」と批判されているわけね。まぁ、内容うんぬん以前に、内緒で書いたこんなメモを暴露されちゃうのは、ちょっとかわいそうな気もするけど・・。

このメモ、どう思ったろうか。僕は、「チャールズ皇太子のいってることは正論だよな」と思ってしまったのだ。もちろん、この訴えている女性がどうだということではなくてね。確かに、こう感じることって誰しもあるんじゃないだろうか。——、個人的にこのチャールズ皇太子って人はあんまり好きになれないんだけど、でもこのメモの内容は、「前時代的な古めかしい価値観」と断罪されるようなものとは、ちょっと違うんでないの?

確かに、「もっと上にあがりたい」ということは誰だって願うことだと思う。だが、それと「自分は、もっと高く評価されるべきだ」ということとは違う。上にあがることを願うあまり、「そうでないのは不当だ、自分が正当に評価されていないんだ」と思い込むとしたら、それは間違いだ。

もちろん、本当に実力がありながら、周囲や上役の不当な評価によりいつまでも低いところにとどまらざるを得ない人もいるだろう。だが、それを「自分は正当に評価されていない」というならば、そもそも世の中に「正当に評価されている」人間などいないんじゃないか。誰だって、自分を周りは理解してくれない、自分にはこれだけのことができるのに、と思いながら生きているんじゃないか。そして本当に実力のある人というのは、そういう状況にありながら尚、上に這い上がってくる人間のことじゃないだろうか。「周りがみんな自分を正当に評価してくれさえすれば上にあがれる」という人間を「本当に実力のある人間」とは誰もいわないだろう。

そして。「上にあがる」ということをどこかで勘違いしている人も実は多いのではないか。——例えば、どこかの会社で働きながら、「自分はこんなところにくすぶっている人間じゃない」と思っている人。その人の頭の中には、例えば「オレは実はタレントに向いてるはずだ」とか、「オレは歌手になったら成功していたはずだ」とか、そういった願望がうずまいていることと思う。だがそれは果たして「上昇志向」だろうか。・・「よし、このちっぽけな会社をオレの力で世界に通用する大企業にしてやる」というような願望は、彼の中に果たしてあるだろうか。

今いる場所から、ぽーんと頂上までジャンプするような、そういうものを「上昇志向」というなら、それは間違いだろう。今いる場所から、一歩一歩自分の脚で頂上まで上り詰めてやる、そういうものを上昇志向というのではないか。——多分、チャールズ皇太子がいいたかったのは、そういう「いきなり頂上までジャンプする人生」を願う人間ばかりになってきている、ということじゃないか、と思ったのだね。

——ま、「いきなり頂上で生まれた」皇太子にそんなことをいわれたくはねえよ、という意見は、確かに正しい(笑)。

公開日: 金 - 11月 19, 2004 at 07:00 午後        


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