ママチャリパパ
ママチャリ、乗ったことありますか、お父さん。なかなか大変なのよこれ。
今日は、愛娘がお昼寝から覚めたところでお買い物。現在、玄関前が造園工事で掘り返されえらいことになってて自転車を出すのも一苦労なため、ベビーカーでのんびりと行くことにした。——で、帰りがけのことなんだけど、信号待ちをしていると、向こうから珍しい一行がやってくるのを嫁がめざとく見つける。
「パパ、ほらほら! 自転車でお出かけしてる人がいる!」
「おお、ほんとだ」
「しかも、パパがママチャリ乗ってる! すごいすごい、初めて見たぁ!」
ママチャリといっても、いわゆるおばさん自転車ではなくて、ハンドルの間に幼児が座れる座席を組み込んであるやつのこと(うちのもこれであります)。そこに子供を乗せてパパがこいでいる。ママは隣でもっと身軽な自転車に乗って付き添ってる感じでありました。
そもそも、このあたりでは「親子で自転車でお出かけ」ということ自体がひどく珍しい。うちの周辺をぐるっと見渡しても、車がない家は我が家一軒だけであります。田舎は、どこへ行くにも車が基本であり、近所のスーパーであってもみんな車で出かけるのだ。——それだけでもかなり珍しいというのに、パパがママチャリをこいでる! これはもう、田舎ではぜっっっっったいにありえない光景なのです。
「きっと、東京から越してきたばっかりなんだわ」と嫁。そう、東京では「自転車でお出かけ」「パパが子供を担当してママはおしゃれ」というのはそう珍しい光景ではなく、誰も目を丸くして見たりはしない。それが全く同じことでも、土地が変わればほとんど珍獣扱いなのであります。オレも、引っ越してきた当初は奇異の目で見られていたんだろうなあ、とか思ったりして(←今でも十分見られてます)。それが今じゃ、平気でママチャリに乗って出かけられるようになった。人間、何事も「慣れ」だなあ、とつくづく思う。
そして、この「慣れ」ってのは、こっち側だけでなくて、あっち側にもいえることなんだよね。いつもパパがママチャリに乗って買い物に出かけて、そういう風景にだんだん周りも慣れてくると、「ほら、××さんところなんていつもパパがママチャリ乗ってるじゃないの。あんたもたまにはやってよ」とかいわれる家もきっと出てくるだろうな。そうして、イヤイヤながらもママチャリに乗るパパが出てくるかもしれない。そうしたら「ママチャリパパ」もいつの日か普通の光景となるかもしれない。
周囲の奇異の目とか偏見とかいったもんは、きっと多くはその程度のものだったりするんだ。障害者、ハンセン病元患者、同和出身者、どんなものであれ、実際に自分の身の回りにいないからこそ余計に頭の中で偏見が増幅されてゆく。でもそれは、すぐ隣に住んでいて毎日接していれば、案外簡単に消えてしまう程度のものだったりするんじゃないか。いや、そんな程度のものなんだと思いたい。
とりあえず、ママチャリパパをもっと増やしてやろう。そうすれば多分、今よりちょっとだけ住みやすくなるぞ。それに、なにより面白そうだしね。ケケケッ。
公開日: 水 - 2月 11, 2004 at 05:01 午後