歴史的認識ってやつ


女性天皇を可能にしようって話はどうなるんだろうね?

政府で、女性天皇を可能にするための法改正(皇室典範っていうやつ)を検討し始めた、というのがニュース出てていた。そしたら今度は官房長官が「そんなことやってないよ」と否定する報道が出て来たりして、にわかに女性天皇問題ってのがクローズアップされて来てる。そもそも、なんで天皇は男性でないといけないのか? まぁ、確かに男性天皇が多いのは事実だけど、女性天皇も今まで何人か(8人だっけ?)いた。だから別に変な話ではない。

女性天皇に賛成か反対か?・・ということを今回いいたいわけではない(笑)。残念でした。このニュースを耳にして、これに関する人々の反応なんかを見ていて、ふと思ったのだよね。それは「歴史的認識」とかいうものがいかにいーかげんか、ってこと。

この問題についての意見をいろいろと聞いてみると、どうも天皇制の歴史に関する奇妙な考え方を信じている人間が多いらしいことがぼんやりわかってくる。1つは「今までの歴史から、天皇は男性がなるのが基本なのだ」という説。これはもちろん、間違い。男性しか天皇になれないという決まりは、たかだか明治中期からの百年ちょっとの歴史しかない。それ以前は、んな決まりなんてなかったのだ。それからもう1つは「女帝は混乱をもたらす」というような説。これももちろん間違いで、日本の歴史上、女性天皇は総じていい政治をしている。まぁ、孝謙(称徳)天皇のときに道鏡の事件が起こったりしたけど、これもいわば「コップの中の嵐」で、行政としての失敗といえば男の天皇の方が圧倒的に多いだろう。——たぶん、これは中国の女帝とどこかで勘違いしてるんだろうね。

天皇制ってのを考えると、どうしても「歴史」というものを考えないといけなくなる。「歴史的に見てどうたらこうたら」っていう見方ね。で、そういう点からいろいろ考えると、僕らが普段「昔からそういう歴史だったのだ」と信じていることの多くは、実は「たかだか明治以降にできた程度のもの」ばかりだったりするんだよね。例えば、夫婦別姓の問題とかでも、んなものは旧民法ができて以降の、日本の歴史から見れば「ごく最近決まった」程度のものでしかないのだ。「夫婦別姓は、日本の古き良き家族制度の崩壊が蜂の頭」などとごたくを抜かす人間がいるけど、そういう人のいう「古き良き日本」なんてのはせいぜい百年かそこいらのものでしかない。古来より日本では、千年以上も前から「夫婦別姓」が基本だったのだ。

多くの人間の「歴史的認識」ってやつは、たいていが「そう聞いてる」とか「なんかでそうだと耳にした」というようなかなりいい加減で不正確な伝聞情報に基づくものだったりする。昔は講談や歌舞伎、今は小説だとかNHKの大河ドラマで覚えた歴史がそのままその人の「歴史的認識」になってたりするんだよね。そして「歴史的なんたら」と口にする国会議員などでさえ、多くはその程度の認識で「日本の歴史はこうだ」と信じ込んでいたりする。お年寄りは忠臣蔵の大石内蔵助だの、鉢の木の北条時頼だの、中山鹿之介だのを講談で覚え、中年は「水戸黄門」で水戸光国やら「暴れん坊将軍」で徳川吉宗やらを知った気になり、若い世代は「新選組!!」で近藤勇に憧れるようになる。それが歴史だとみんな信じて。

多くの人間が口にする「歴史的認識」というのは、ただ単に「自分の意見が正しいということをもっともらしくいいたいだけ」に用意されたものだったりする。どのような問題であれ、歴史をず〜〜〜っと細かく見てみれば、実はそれに「賛成」な時代も「反対」な時代もあったりするのだ。女性天皇だってしかり。「歴史をどう見るか」によって、そこから「歴史的に見れば女性天皇はあくまでつなぎ的なものであり臨時の措置であり、基本は男性というのが日本の歴史だった」という意見も作れるし、「いや、基本的に女性天皇を禁止するという見方こそが日本の歴史からすれば一時的なものなのだ」という意見も作れる。どっちも自分の意見を「歴史的に見て正しい」と主張できるようになってるのだ。

偉い人(と自分で思ってる人)が自分の意見を展開するときに「歴史的に見て・・」という言葉を持ち出して来たら、「この人は、自分の考えが正しいことを自身の能力だけで証明できないんだな」と僕は考えることにしている。歴史的認識なんてものは、後からその人にとって都合のいいように作れるものなのだということを忘れてはいけない。歴史上の事実は一つであっても、解釈の仕方は無限なのだ。


・・で。「結局、お前は女性天皇に賛成なのか反対なのか」という人。そもそも僕は「天皇なんていらない」ので、別にどっちでもいーのです。天皇制廃止しちゃえば、賛成も反対もないじゃん。天皇制なんて、たかだか千年ちょっとの歴史しかないのだ。何万年以上も前から続く人類の歴史からすれば、ちっぽけなもんさ。それが僕の「歴史的認識」。

公開日: 水 - 12月 1, 2004 at 07:01 午後        


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