監視好きな人々


いらっしゃいませ。あなたの行動はすべて監視されています。——そんな店でのんびり買い物なんて僕にはできないよ。

最近、あちこちのホームページで、どうも気になるものが増えてきた。それは、手裏剣マークがぐるぐるしてるやつ。そう、某アクセス解析ツールの利用を示すマークだ。——いつの間にやら、知らないうちに密かに広まってるね、アクセス解析ってやつ。どうもあれが僕は苦手だ。あれを見ると、「私は、私のサイトに誰がどこから来たか全部見張ってます。あなたも見張られてるんですよ」とかいわれてる感じがしてしまうからだ。・・ほら、空港なんかでゲートをくぐって、怪しいものを持ってるとビーっ!とかなるやつ、あるでしょ? 別に何も怪しいものは持ってないんだけど、それでも行く先々でそういうゲートが取り付けてあったりしたら、なんかイヤ〜な感じがしてこない?

アクセス解析ツールは、今では無料で使えるものなどまでいくつも登場している。各ページのユニークユーザ数やどこからジャンプしてきたか、どんな検索ワードでたどり着いたか、アクセスした人のIPアドレスなど、さまざまな情報をログに記録する。多分、多くの人は全体的な傾向などを見るのに使う程度だろう。だが、ツールによっては、やろうと思えばかなり個人を特定できる情報を得られるものもあったりする。特に、リアルタイムにアクセスしたクライアントを監視していれば、そのIPアドレスにすぐさま攻撃をかけたりすることもできないわけではない。もちろん、ほとんどの人は「そんなこと考えたこともなかった」という感じだろう。だけど、「できないわけではない」ってことは、どこかで「ちょっと試してみようか」という人間がいたっておかしくないように思えてしまう。アクセス解析の面白さにはまって、気がつけばハッカーまがいのことをやるようにまでなったりする人、案外いるんじゃないか?

そうした技術的な話の他に、何となく感じるのは「サイト運営者がどんどんせせこましくなってきている」ということだろうか。——この出版不況の中でも、インターネットやWebサイト関連の本はそこそこ売れている。が、一昔前とはかなり傾向が違ってきている。今、一番元気なのは「Webサイトでもうける方法」とか「アクセスをどっと増やす方法」とかだったりする。アクセス解析の本も最近ではずいぶんと出てきた。なんというか、Webサイトを作ろうと思う人間の質の変化を伺わせたりしない?

商売でサイトをやっているならいろいろ気にしないといけないことはあるだろう。だけど、個人が趣味でやっているサイトで、なんだってそんなことを気にするの?というような細々したことを気にする人がふえているような感じがする。アクセスを増やすハウツー本を買ってきて、アクセス解析本を買ってきて、そして自分のサイトにやってくる人間たちを調べ、ホームページに様々な仕掛けをする。もちろん、それが悪いといってるんじゃないよ。ただ、「そんな暇あったら、コンテンツを増やせば?」と思うのは僕だけなんだろうか。

現在、インターネットの世界はさまざまな問題を抱えている。自分のサイトへの攻撃やアラシに頭を痛める管理者もたくさんいるだろう。そうした人が、アクセス解析などによって対処を考えるのはもちろん間違いではないし、その有用性はぼくもよくわかる。ただ、そうした現時点で何らかの問題を抱えているわけでもないサイトが、なんとな〜く面白そうとか、知り合いがやってるから、とかいった理由でアクセス解析をつけているのが僕にはどうもイヤ〜ンな感じなのだ。極端な無法地帯から、極端な監視社会に進んでいる感じがついしてしまうんだな。

犯罪の増加に苦慮して、町中に監視カメラをつけるところが増えてきた。アクセス解析も、それと似たような印象を受ける。もちろん、それが必要なところもあるだろう。が、だからといって日本中のあらゆるところに監視カメラがつけられ、どこへ行くにも逐一誰かに監視されているような世の中が「いい世の中だ」と思う人もいないだろう。忘れてはならないのは、「監視している側には、その不快感がわからない」ということだ。カメラの映像をじっと見ている側には、「自分の街は自分たちで守るんだ」という自負と正義感があると思い込んでいる。だがその仮面を剥がしてみたら、その中には単なる好奇心と覗き趣味しかつまっていなかったりする。

監視することに慣れ、監視されることに鈍感となるのはよくあることだ。殊に、そうした立場に不慣れな人間の場合は。知らないうちに人々の行動を監視するということは、まるで自分が上から人々を見下ろしているかのような錯覚を与える。自分が、人々を支配しているかのような、そんな錯覚を与える。大げさだろうか? だが、アクセス解析をしているサイトで「××からアクセスされている方は以後、書き込みを禁じます」とか「××からこのサイトへ来ている方、お断り」というような張り紙(?)をときどき見かける。少なくとも「自分のサイトを訪れる人間は自分が管理すべきだ」と考えている人間が増えていることは確かだろう。「公開する」ということは、「誰もがそれを利用できる」ということであり、「利用する人を公開する側は選べない」ということだ。だが今は「自分のものなのだから、誰が利用するかは自分が決める」と考える人が着実に増えているようだ。

アクセス解析をしているサイト運営者の皆さん。少なくとも、「自分は、サイトに来るお客さんを監視しているのだ」という意識だけはしっかりと持って下さい。そして、「自分のサイトでは、そうしたことが必要な差し迫った問題が現在あるのか」「アクセス解析によって得られるどのような情報がどれだけ自分のサイトにとって重要なのか」ということを一度考えてみませんか?

いつの日か監視社会がやってくるのだとしても、なにも自分の手でそれをわざわざ引き寄せることはない。そうでしょう?

公開日: 月 - 11月 22, 2004 at 05:07 午後        


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