悪代官の心理


悪役に快感を感じる人間というのは確かにいる。が、芝居やドラマならまだしも、実社会でいるとは。

昨日の夜のことになるけど、今思い出してもむかっ腹がたって仕方がないことがあったので書く。——昨日の夜、久しぶりに娘が早く寝入ったので、何百日ぶりかで報道ステーションだのニュース23だのを見ながらビールを呑む喜びに浸っていたのでありました。すると、そのニュースが。

法務省入国管理局は、難民認定を求めていたクルド人の親子を強制送還にした。——というニュース。

クルド人は、現在、本国のトルコで激しい迫害を受けている。トルコはそれぞれの民族が自分たちの言語や文化を表現することを法律で禁じており、そのためクルド人に限らず多くの民族が今も迫害されている。強制送還されたハメット・カザンキランさんは、反体勢のデモ活動などに参加していたため、身の危険を感じ、90年代後半ごろに一家で日本に脱出してきた。日本で難民申請をしていたのだけど不認定とされ、今回の強制送還となった、ということだ。

当然のことながら、「反政府の活動に関わったために身の危険を感じ国外脱出した人間が、なぜ難民と認定されないのか?」という疑問がわく。実をいえば、国連の機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、彼は難民と認められているのだ(いわゆるマンデート難民というやつ)。国連が難民と認めた人間を日本政府の方で「いや、難民じゃない」といって強制送還をした、ということで、こんなケースは未だかつてなかった。

今回のケースでは、単なる強制送還ということだけでなく、その底になんともいえない悪意を感じる。入管は、彼の仮放免更新を不認可とした17日にすぐさま収監し、翌日には強制送還するという、お役所仕事からすれば異常なくらいに素早く措置をしている。しかも、一家の働き手である夫と長男の2人をまとめて送還するとは。残る家族だけで、しかも「難民と国に認められずいつ強制送還されるか判らない」とい状況下で、どうやって暮らせというのか。

わからないのは、「彼らを難民と認めることに何か不都合があるのか」ということ。難民と認めるとこういう問題がある、こういう不利益がある、ということがあるなら一考の余地はあるが、どう考えてもそんなものが見当たらないのだ。彼のような人間を難民と認めたからといって、「オレもオレも」と難民が何万も何十万も押し寄せてくるわけでもあるまい。一体、ここまで厳しい処置をとる理由は何なのか?

嫁は「これをやった人たちは、絶対に楽しんでる」と怒り狂っておりました。確かに、真っ当な神経では、こんなことやれやしない。たとえ「日本では難民認定されていないんだから」といっても、もう少し時間を稼ぐとか、引き延ばすとかいうことはいくらでもできたことだろう。だいたい、「たらい回し」ってのは役所の十八番じゃないのか? 作らないと決まったダムや橋や道路を、何十年も時間稼ぎして結局作っちゃったりするぐらいなんだから、強制送還ぐらい引き延ばすのはわけないだろうに。

一体なぜ?と疑問に思っていたのだけど、ついさっき、ひょっとして・・ということに思い当たった。——実をいえば、昨年末の平成16年12月2日に、出入国管理及び難民認定法が改正されている。これにより、「仮滞在許可制度」というのが創設されたりして、より難民にやさしい方向へと修正がはかられた、はずだった。この改正では、参議院附帯決議としてこういう文言が付け加えられている。

「出入国管理及び難民認定法に定める諸手続に携わる際の運用や解釈に当たっては、難民関連の諸条約に関する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の解釈や勧告等を十分尊重すること」

つまり、「これからはUNHCRのいうことを尊重して、入管が好き勝手に難民を追い返したりしちゃダメだよ」となったわけだ。——ということは、今回の件は「自分たちの権限が削られようとするのを再び取り戻そうとする」巻き返しの意味があるんじゃないのか? つまり、「改正ではそういうけど、結局現場ですべての権限を持っているのは我々ですから。最終的には我々にすべての決定権があるということで」ということを改めて示すために、わざわざUNHCRが難民と認めた人間を、不必要なまでに厳しい処分をして「国連のいうことなんて我々には通用しないんだぞ」ということを示してみせたんじゃないのか?

権力の快感というのは、他人を不幸に陥れるときにもっとも強く感じられる、という。誰かを助けてあげたときに「あぁ、オレの力は実に素晴らしいものだ」と感じることはそう多くはないようだ。それよりも、「自分なら助けてやれる人間を不幸に突き落とす」ときのほうが、「オレって強いんだぜ」と感じる、らしい。権力に限らず、腕力にしろ何かの能力にしろ、人間ってやつには、そういうところがあるのは確かだろう。自分より圧倒的に弱い人間をいたぶることで自分の強さを再確認する、ということ。

だが、今回の件に関わった人間たちは、大きな勘違いをしている。その力は、お前のものではない、という点を。その力は、あんたの力じゃない。我々国民が、あんたを信用して一時的に貸し与えただけのものなのだ。だからこそ、その力は常に国民の利益のためにこそ使われねばならない。すべての公務員は、任官時にそのことを誓ったはずだ。

「自分たちがこの国を支えているのだ、動かしているのだ」と大きな錯覚をしているすべての公務員および政治家へ。お前たちは、我々が「一時的に任命してやった」だけの存在なのだ、ということを忘れないように。「公僕」という言葉の意味を辞書で調べておきなさい。人々を苦しめるためにしか働かない役人のために、我々は税金を払っているわけではないのだ。


これを書いているのが午後2時。強制送還された父子は、既に11時間ほど前に、イスタンブール空港についているはずです。「クルド人難民二家族を支援する会(ホームページはここ) 」では、その場で拘束・連行され、最悪の場合は殺される可能性があると警告しています。また、残る家族についても、24日(月)に入管に出頭するようにいわれており、即日収容、強制送還すると法務省はいっているそうです。——この件に関し、怒り心頭に達しおさまらない、という方は、以下のところへ激烈なる抗議を。

[法務省]
FAX:03−3592−7393
e-mail:webmaster@moj.go.jp

[東京入国管理局(品川)退去強制 執行部門]
TEL:03−5796−7122(直)
FAX:03−5796−7125

[トルコ大使館]
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-33-6
e-mail : embassy@turkey.jp Tel : 03-3470-5131
Fax : 03-3470-5136
http://www.turkey.jp/

公開日: 水 - 1月 19, 2005 at 01:50 午後        


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