強制送還その後
あちこちから非難と抗議の声が上がっている。が、送還された2人の安否はまだ不確かなようだ。
19日の「悪代官の心理」に書いたように、難民申請をしていたクルド人の父子がトルコに強制送還されて2日経過した。その後、ずいぶんいろいろな動きがあったようなので書いておく。
——イスタンブール空港に到着後、その場でトルコ警察に拘束された模様だ。その後釈放されたとも聞くが、一方で長男のラマザン氏はそのまま軍隊に入隊させられたとも聞く。どうなっているのか今もよくわからないのがもどかしい。ともかく、向こうに着いたところまでは報道機関やNGOなどにより確認できたが、その後がはっきりしないようだ。
強制送還が明らかになってから、あちこちの団体から声明があがっている。なによりも、国連のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が、この件についての見解をいち早く出しているのに注目したい。UNHCRは、この「前例のない強制送還に憂慮している」といい、このような措置は、国際難民法で禁止されている「ルフールマン」に当たる、と指摘している。「ルフールマン」というのは、迫害を受ける危険のある領域に人を送り返すことで、これは難民の保護の観点から決して行なってはならない行為だ。日本は、難民条約と拷問等禁止条約という国際条約を締結しており、このルフールマンは、重大な条約違反になる。
日本で難民と認められないことから、UNHCRは第三国での定住の道などを含めて方策を講じているところだった。そのことで、実は日本政府とも合意を取り付けていたのだそうだ。ところが、何の連絡もなくその合意は破棄され、強制送還された。UNHCRは「入管と協力関係を築こうとしたが、抜き打ち送還をされ、事前連絡さえなかった。これほど我々に非協力的な国はない」と批判しているという。
トルコ国籍の難民申請というのは、日本で既に480件以上も出されているそうだ。ところが、信じられないことに、この中で難民と認められたケースは、一件もないのだ。ゼロ。これはつまり、申請の内容うんぬんという以前に、「最初から、認める気がない」ということだ。要するに日本は、なぜかはわからないが「トルコからの難民は一切受け付けない」と決めているらしいのだ。
それが証拠に、日本政府は難民の申請内容を調査するためにトルコに政府の役人を派遣し、トルコ警察と一緒になって!調査をしているという。調査。信じられない。「トルコの政府に迫害を受けている」といって日本に逃げてきた人間の知人や親類を、トルコの警察と一緒になって調べて回っているのだ。この調査が原因で、トルコに住む家族と連絡を断った例もあるという。これは要するに「難民申請なんかしたら、国に残ってる親戚や知人がどうなっても知らんぞ」と脅してることではないか。日本の法務省の役人は、トルコ政府に金でもつかまされてるのか?
法務大臣の南野氏は、「法律に従って判断した」と会見したそうだ。法律に従って。それは、一体、何の法律だ? 改正された出入国管理及び難民認定法では、UNCHRの勧告を尊重しなければならないと定められている。日本が締結している難民条約ではこのような送還は硬く禁じられている。一体、何の法律に従ってこのような判断をしたというのか。こうした人間の命や人権を守るために作られた法律をすべて無視し、不法滞在者の取り締まりのためのちっぽけな法律を高々と掲げて「ほら、私たちはこの法律に従って判断したのよ。だから正しいのよ」というのか。
何度も書いたけれど、法とは弱者のための盾なのだ。だからこそ、弱者を救済するために柔軟に運用することができるようにできているのだ。そうした「救済のための柔軟な運用」をすべて無視し、杓子定規に弱者を切り捨てる法の運用を行なう人間が法務大臣なのか。
まもなく、24日に、残る家族も仮放免機関が切れ、収監される。これ以上、日本という国の名前を貶めるようなことだけはしないでくれ。そう祈るばかりだ。僕は、日本という国がここまで酷い国だとは思いたくないのだ。そりゃああんまり誉められないところも多々あるだろうが、少なくとも海外から白い目で、見下げ果てた目で見られるような国とは思いたくないのだ。頼むよほんと。
公開日: 金 - 1月 21, 2005 at 06:46 午後