驚いた本のその後


ソフトバンクから、例の本の例の件について返事が届いた。ふむふむ。

「驚いた本」で書いた「JavaデベロッパーのためのEclipse導入ガイド改訂版」の問題の記述について、ソフトバンクから返事のメールが届いた。以下、受け取った返事からの引用。(引用ですよ、念のため。盗作じゃないよ(笑))

ご連絡をいただきました『JavaデベロッパーのためのEclipse導入ガイド 改訂版』で
ございますが、同書は、同ソフトウェアの開発元であるIBMさまの協力を得、導入から
活用までをまとめたものでございます。
こういった解説書におきましては、著者、監修者がお持ちのノウハウが売りとなります
ですので、制作に際しましては、できるかぎり有用な情報を盛りこんでいただく形で
作業をいたしておりますが、用語、基本的な操作等々、同開発元で作成されたヘルプ
などの説明と大きな違いが生じにくい部分もございます。
しかし、これから導入を考えておられる利用者の便宜を考えますと、こういった解説部分
も必要がございます。そのため、今回は同ソフトウェアを熟知されている日本IBMの方に
監修をお願いし、本書の記述内容をご確認いただきながら、作業させていただきました。

ヘルプ内容以上の情報をご提供できなかった部分があるとのご指摘は真摯に受け止め、
より濃い情報を掲載できるよう、努力してまいる所存でございます。
今後も、倍旧のご愛顧をいただけますようお願い申し上げます。

以上、簡単ではございますが、回答とさせていただきます。

うーむ。微妙な言い回しですね。さすが。クレーム処理担当というのはこうでなくちゃ。という個人的な感想はさておき。こちらが問い合わせた「ヘルプをそのまま書き写したのではないか」「もしそうだとしたら、それは問題ないのか」という質問については、うま〜く焦点をぼかして解答しないようにしてあるところがさすがです。こういうのは「問題あります」とも「問題ありません」とも、どっちに答えてもまずい事態に陥るような気がする。その辺を考えて、「問題があるともないともいってないよ」という言い回しにしてあるのですね。クレーム処理とは、実にこうあるべきです。

というほめ殺しはこのへんにしておいて。どうも理解しにくい点があるのは確かだよね。まず、「用語、基本的な操作等々、同開発元で作成されたヘルプなどの説明と大きな違いが生じにくい部分もございます」という文。まあ、用語の定義については厳密さを要求される場合、開発元の定義をそのまま当てはめて説明することはある。これは「定義」というものの性格上、やむを得ない。だって、変えちゃダメなんだから、定義ってのは。——だけど基本的な操作が「ヘルプの説明と大きな違いが生じにくい」というのは、あり得ない。ヘルプの説明と同じような説明しか思いつかなかったとしたら、それはライターと呼ぶに値しない貧弱な文章表現しかできないということになる。どんなことであれ、一つのことを説明する方法は幾通りもあるはずで、「ヘルプと同じ表現しかできない」ことは絶対にあり得ません。

そもそも、このEclipseの日本語ヘルプっていうのは、どうも外国人で日本語のできる人が書いたような文というか、日本語の文章としては妙な言い回しがけっこうあるんだよね。この本を読んでいて「これは?」と気がついたのも、この「普通の日本人ではあんまり書かないような変な表現」が気になったからで、普通にちゃんとした日本語として説明を書こうと思ったらこんな変な表現にはならないと思う。ということは、「きちんと表現しようとしたらヘルプと同じものになった」というのでなくて、やはり単に「何も考えずヘルプを丸写しした」ということだとしか思えないのだ。

ま、そんな枝葉の部分は別にいい。僕がイラッとしたのは、「ヘルプ内容以上の情報をご提供できなかった部分があるとのご指摘」という文。僕は、別にそんな指摘をした覚えはない。以下、僕がメールした内容を引用しておく。
問い合わせというわけではありませんが、疑問に思った点がありますのでご連
絡します。
 「JavaデベロッパーのためのEclipse導入ガイド・改訂版」にて、Eclipseの
日本語ヘルプと全く同じテキストが何ヶ所かで使われていますが、これは問題
ないのでしょうか。第1章の各ビューの説明などは、ヘルプのテキストをその
ままコピー&ペーストしてあるように思えます。
 本書を見た限りでは、この点についての断り書きなども見られないようです
が、許可を得て使われているのか疑問に思いましたのでご連絡した次第です。

わかりますね? つまり僕は、「ヘルプのテキストをそのまま本文で使っているのは著作権の侵害にならないか?」ということを尋ねているのであって、「ヘルプの内容以上の情報が提供できていない」ということをいっているわけではない。——まぁ、おそらく「そんなことは承知の上で、微妙に質問の意図をはぐらかした解答をしている」んだろう。

要するに、「これから頑張るから内緒にしといてね」ということをこちらに伝えたかったんだろうね。気持ちはわかる。ヤフーBBの大量顧客情報の流出やら、とかくソフトバンクさんは外野からやいのやいのいわれることが多いんだろう。「もう、いらんことせんでくれよ」という気持ちはとってもよくわかるよ、うん。

あるいは「同ソフトウェアの開発元であるIBMさまの協力を得」とあることから、「Eclipseの開発元のIBMの協力を得てやってるんだから、開発元のIBMが、自分で作ったソフトのヘルプをそのまま流用してもそれは問題ないだろう」という考えなのかも知れない。確かに、EclipseのコピーライトはIBMになっているんだよね。だけど、この本の著者はIBMではなくて、別のライターだ。IBMは、あくまで「監修」であって、この本の著作権者は全くの別人なんだよね。となると、やはりこれは著作権の侵害に当たるんじゃないだろうか。少なくとも、IBMがそれを許しているなら「IBMの許可を得て、一部ヘルプのテキストを本文に使っています」というような断り書きが必要なのではないか。——その辺も含めて、クレームをつけているのではなく「正しい判断を知りたい」と思ったんだけど、その点について全く触れられていないのは残念だった。

それにしても、日本の技術関係の出版社としてはかなり名の通ったソフトバンクが、著作権侵害についてこの程度の見識しかもっていないというのは、この業界の意識の低さを如実に表しているように思う。侵害された当事者が怒鳴り込んできたらひたすら謝って穏便に解決をはかるが、当事者でない読者が指摘した程度なら適当にお茶を濁してすませればいい、という感覚なのだろうか。

「文章を扱う仕事」でありながら、コンピュータ関係というのは他の出版メディアと比べて本当に文章に対する扱いがぞんざいだ。そのことを今更ながら再認識させられたのでした。

公開日: 水 - 3月 24, 2004 at 01:53 午後        


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