反日と愛国心


中国で、そして日本で、愛国心という愛情の販売合戦が続く。

中国での反日運動が激化している、というニュースが連日伝えられている。当初は日本の常連理事国入りへの不快感というかそういうものと、インターネットでデモや集会をあおった若い世代が結びついたものという感じだったようだけど、どうやら既に反日行動はそれを始めた人間たちの手に負えない状態にふくれあがってしまったみたいだ。世間一般というものを当てにした行動というのは、たいていの場合、それを考えだした人間の意図とは反した方向へと暴走するものだね。

デモの中心となった人々というのは、中国の若い世代だという。中国では80年頃からかなり反日的な教育が強化されたということを聞いたことがある。そうして育った世代が、今の反日デモなどの中心となっているのだろう。——こういうと、すぐに「中国の反日教育はうんぬんかんぬん」といった方向へ話が向かってしまうのだけど、うーん。

これは、いわゆる「愛国心」というような話にも結びついてしまうのだけどね。中国では「反日」がいわば愛国心とイコールに近いものらしい。そしてそのことを日本の「愛国心」を声高に叫ぶ人々は糾弾する。その一方で、こうした愛国的な皆様方の作った教科書などを中国の愛国的な皆さんが反日の象徴として取り上げる。そうしてお互いに相手の「愛国的な教え」と称するものを糾弾し、自分たちの愛国的な考えを擁護する。今更いうまでもないほど、昔からそうしたことが何度となく繰り返し続けられてきた。

おそらくはそうした突出した愛国的な考えについていけない大多数の人々を置き去りにして、お互いの愛国心の責め合いだけが続けられる。自分たちの愛国心こそみんなが理解すべきものなのだ、お前たちの愛国心は間違いだ、と。——だが思うのだ。そうした人間たちの愛国心がその国を愛する本当の姿なのだと思われることは果たして正しいのだろうか、と。

どのようなものであれ、何かを「愛する」ということは、声高に叫ぶようなことではない。声高に叫び人々にその理解を強要するようなものは、それは本当の愛情ではない。人を愛することであれ、国を愛することであれ、それは同じことと思うのだ。「愛する」ということは、他人にとやかくいわれる類いのものではないし、他人の愛情をとやかくいう類いのものでもない。

それが、なぜか不思議と愛情の対象が「国」とか「民族」とかいったことになると、途端に「声高に叫ぶ愛情」が真の愛であるかのようにいわれるのはなぜなのか。——それは、そうした場合には、愛情以外のもの、端的にいえば「利害」の占める割合が殊更に大きくなってくるからではないか。ただ純粋に「自分はこれこれを愛する」というだけであれば、声高に叫ぶ必要など全くない。それを声高に叫び、そして人々に強要し、その正当性を認めようとするのは、そうすることによってさまざまな利益があるからではないか。多くの場合は、その国の利益に、更には、そうしたことを主張する人々の利益に。具体的な金銭という形ではないにしろ、「そうした人々にとって住みやすい世界になる」といった金銭では換算できない利益があるからこそ、その利益のために必死になるのではないか。

日本にしろ、中国にしろ、韓国にしろ、米国にしろ、その他もろもろの国にしろ、自国の愛国心を叫び、他国の愛国心を糾弾するその最大の理由は、自国への「愛情」のためなんかではない。自分たちの「利益」のためなのだ。——そして非常に面倒なのは、そうしたことを彼らは決して認めない、という点だ。部分的に認めることがあったにしろ、「それはお前たちの利益のためにやってるんじゃないか」と逆に責められてしまったりする。「そういうのを押し売りというのだ」という真っ当な意見は通じない。

国を思う心をうんぬんするのは結構。だが愛情は他人に押し付けるものではない。自分の愛情を他人に対してどうこうしようと考えたとき、それは「営利目的の愛情」なのだということに気づかなければいけない。その愛するものが人であれ、国であれ。——もちろん、「愛情に利益を一切持ち込むな」なんて野暮なことはいわない。男女の愛情であれ、純粋に愛する気持ちとは別に、やっぱりどこかで利害を考えたりするものだよね。ただ、少なくとも「ちょっと利害のこと考えちゃってるよなぁオレ」ぐらいのことは誰だって頭をかすめるもんだ。そこに、ちょっとばかり自省の気持ちが芽生えたりするわけじゃない?

日中の、そしてそれ以外のすべての国の「愛国心」を叫ぶ皆様。せめて、自分たちのやっていることが「純粋な愛情」だけではなく「利益目的」であることぐらいは気づいて下さい。あなた方は、「自分たちの利益のため」にやっているのであって、これっぽっちも「僕のため」にやっているわけではない。「愛は盲目」は迷惑です。

公開日: 日 - 4月 10, 2005 at 03:39 午後        


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