虎だ、お前は虎になるのだ!
・・ちゅうわけで、Mac
OS
Xはもうすぐ虎になるそうであります。
Mac OS
Xの時期バージョンであるTigerのプレビューが発表になった。ちらっとホームページで見たところ、JavaScriptで作ったウィジェットやら、操作の自動化ロボットやら、なかなか斬新な機能が増えているようだ。WebブラウザのSafariも大幅な進化をしているようだし、標準開発環境Xcodeも2.0になる。毎年、よくまあこれだけ大幅なバージョンアップをやれるもんだ。
いやあいやあ、たいしたもんだ、と思いはしたが、ざっと眺めた後で思わずため息をついたのも実は確かだった。——また、これだけのものを勉強しないといけない。そう思えばため息も出ようというものだ。まぁ、こっちはパソコン使うのが仕事だから、新機能がいっぱいあれば、ある意味でこっちの仕事も増えるわけなんだけど、出過ぎるのも困る。なぜって、書くヒマはおろか、売るヒマさえなくなってくるからだ。書籍は、モノを手にしてから調べて書き上げ出版するまで数ヶ月かかる。新しく出たバージョンの本を書き上げて出版したその翌月ぐらいには、もう次のバージョンのプレビューが出て、その数ヶ月後には次のバージョンがリリースになる。これじゃ一体、いつ書けばいいんだ?と文句の一つもいいたくなるよ。
もちろん、Appleとしては毎年新しいバージョンをリリースすることで、バージョンアップによる利益を見込んでいるんだろう。それがないと収益的にもつらいんだろう。確かに、毎年出てくる新バージョンでは実に魅力的な新機能が搭載されている。それは確かだ。——だけど思うんだけど、多くのユーザが果たしてそうした新機能をどこまで望んでいるのだろうか。
コンピュータは、要するに「道具」なのだ。コンピュータを使うことが目的なのではなく、ある目的のためにコンピュータという道具を使って仕事をしたり遊んだり楽しんだりしているわけだ。だけど、そのためには、やっぱりコンピュータという道具をどれだけうまく使えるようになるかを考えないといけない。たいていの作業は、その道具に習熟するほど効率よく進められるようになる。そして習熟するためには、その道具の細かな点まで理解し使いこなせるようにならないといけない。が、肝心の道具自身が頻繁に変わってしまったら、それに習熟することはひどく難しくなる。
別にコンピュータに限った話ではなくてね。ある道具を使って何かをするとき、人は2つの種類に分かれると思う。1つは、その道具に習熟することでより深くその世界を理解していこうと思うタイプ。もう1つは、道具そのものを次々と新しいもの、よりよいものに買い替えることでよりよいものを作ろうとするタイプだ。——前に、仙台箪笥の飾り金具を作る職人さんの仕事をテレビで見たのだけど、その人が「いい道具がないといい仕事はできない」といっていた。それは確かにそうだろう。だが、その人は、その「いい道具」を手にしてから数十年をかけて自分のものにしているのだ。粗悪な道具でいくら頑張ってもいい仕事ができないのは確かだが、どんなにいい道具であっても次から次へと替えていては、やっぱりいい仕事はできないだろう。
Mac
OS X
Tigerの新機能は実に面白そうだ。特にウィジェットなどは自分で勉強して作ったりできそうだ。だが、もし更に1年後に出る新々バージョンでこの機能が大幅にアレンジされ全く新しいものになるとわかっていたらどうだろう? 「別に、今、一所懸命勉強しなくてもいいや。どーせ1年後にはもっと新しくなるんだろうし」といった気分になるんじゃないだろうか。そして、とりあえず「誰かが」その新しい機能を活かした面白いソフトなりを出してくれるだろうから、それで遊ばせてもらおう。そのうち新しいバージョンが出てから考えよう、と思う。そうして新機能に意欲的に取り組む人は減少し、その世界そのものが衰退していく。そういうことってないだろうか?
僕は、新しいことを学ぶのが割と好きだ。新しいものが登場すれば、それが面白そうなら頑張ってモノにしたいと思う。だが、そうした努力が短期間で無になることがわかっていたら、果たして学ぶ気になれるだろうか? 新しいものを取り入れることも確かに大事だ、けれど既にある「よい道具」に習熟することもやっぱり大切だ。Tigerは、はたして今のPantherの知識や技術をより深めることができるように進化しているだろうか。それとも、それまでの知識を全て捨て、新たに覚え直さないといけないものになっているだろうか。そのどちらかによって、こいつの評価は決まるような気がする。——人間、いくばくかのお金よりも、自分が蓄積して来た知識や経験や技術のほうがはるかに大切なのだから。
※ちなみに、これを書いたのが29日、アップされたのは30日。丸一日、.macのiDiskがとまっていてアップロードができなかった。機能強化より、機能の安定の方が遥かに大切なことを痛感した一日でした。
公開日: 水 - 6月 30, 2004 at 01:04 午後