人質青年の死


人質となっていた彼の死が確認された。黙祷。

イラクの武装集団に拉致されていた香田証生さんの遺体が確認されたそうだ。遺族の方の心中、察するにあまりある。赤の他人ではあるけれど、おくやみの意を伝えたい気持ちだ。そして亡くなった香田さんに一言いうなら、きっと面白い人間に成長することだったろうに残念だよ、というのが正直なところだろうか。その「能天気な勇気」は、きっとこの先、面白い人生を切り開けただろうに。

毎度のことというか、今回も彼の行動に対する批判などがずいぶんと家族に送りつけられたようだ。今回の彼の行動は、先の人質事件の人々に比べると、はっきりいって軽率であり、考えなしな感が強かった。前のときよりは遥かに状況も悪化しており、何度も現地を訪れている人間でさえ「今は入るのは無理だ」というような状況で、計画もなく、金もろくになく、行き当たりばったりに入り込んで、目立ちまくった行動をして、そしてとらえられた。そう思われてもしょうがないのは確かだ。

で。それの何がいけないのだ?と思うのは僕だけだろうか。確かに軽率だった。だけど、軽率であることはそんなに罪深いことなのか。彼を非難する人たちよ、別にあんたの命を危険に晒したわけじゃない、本人が本人の命を危険に晒して、そして事件に遭い亡くなった。そこに、なんで赤の他人であるあんたがしゃしゃり出て偉そうに文句をたれるんだ? いろんな人のいっている非難の意味が僕にはまったくわからないのだ。

1.「自己責任」論
「自己責任だ」という言葉を出して彼を批判する人がまたもやたくさんいることが僕には全く理解できない。自己責任なら、彼を非難することなど全くないじゃないか。自己の責任において行動しました、以上。それだけでしょ? どこに問題があるんだろうか。——逆に「自己責任ではないんだ」というなら、非難する意味はわかるんだけどね。つまり「自己責任で行動するんじゃない、自分で責任をとれるかどうかということに関係なく、国が『入るな』といったら入っちゃ駄目なんだ」というならよーくわかる。ところが「自己責任だ」といいつつ、彼が自己の責任において行動することを非難するというのがわからない。
 自分の責任において行動した結果こういう目にあったんだから国は助けなくていい、っていうことなんだろうか。それじゃあ新潟の地震も、「家が老朽化して大地震に耐えられないのはわかってて住んでたんだから、家がつぶれても自己責任だ、国は助ける必要ない」っていうのだろうか。台風でも、「土砂崩れが起こるような場所に家を建てたやつがわるいんだ」というんだろうか。

2.「政府に頼るな」論
それから、「こういう政府のいうことも聞かず無鉄砲に行動した人間の命まで守る必要はない」というような意見もずいぶんとあったようだ。それはつまり、「その人がどういう人かによって、国はその人の命を守るかどうか決めればいい」ということなんだろうか。この人は真面目に国のいうことを聞いて行動したのに危険な目にあっている、だから助けないといけない。この人は国のいうことを聞かないで行動したんだから助けなくていい。そういう「相手によって命の取捨選択をしてかまわない」ということなんだろうか。——国というのは、すべからく国民の命を守る義務があると僕は思っていた。その人の思想信条行動の善し悪しに関わらず、その国の人間が危険に遭遇すれば国はその人を助けなければならないと思っていたんだが違うのか。それじゃあ新潟の地震でも、国に反抗的な人間は保護しなくてもいい、ってのか?

3.「思慮が足りない」論
今回は、「あまりにも考えが足りない行動だ」という非難もけっこうあったみたいだ。これもわからない。例えば、一国の総理が国の行方を決定するのに「考えが足りない」と非難されるのはわかる。その行動が自分だけでなく多くの人に影響を与えるのだから。だけど、一人の人間が、自分一人の行動を決めるのに、なんだって赤の他人に「考えが足りない」と非難されなきゃならんのだ? 確かに彼は深く考えずに行動したかも知れない。だが、それを思慮ばかりで何も行動しない人間に説教されちゃたまらんだろう。——「彼の浅はかな行動のせいで、自衛隊の撤退を国に要求された、それはどうなんだ?」という人もいるかも知れない。では、逆に「日本政府の浅はかな行動のせいで多くの日本人の命が危険に晒された」責任はどうなるのだ。そっちのほうは「責任なし」ですかい?

——彼が生きていれば、小田実的ななかなかに面白い人間に成長したかも知れない。だから、赤の他人である僕の意見としていえることは「残念だ」ということだけだ。残念だが、自分で思ったように行動して死ぬ権利ぐらいは誰にだってある。彼がそういう道を選んだんだからそれはしょうがない。思うのは、この先、彼のような行動をとろうと思う若者の脚を引っ張るようなことだけはしないでおこう、ということだろうか。少なくとも、自分では何一つ行動していないのに、人が何らかの行動を起こしたことに対して上から見下すように批判することだけはしないよう気をつけねば。

公開日: 日 - 10月 31, 2004 at 05:15 午後        


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