17年蝉


米国で17年蝉が地上にどっとやってきたらしい。でも、なんで17年か、わかる??

蝉は、幼虫の間、ずっと地面の中で過ごす。そして成虫になると地上に出て、わずか数週間の間に交尾をし子孫を残して死んでいく。——というのはだいたいなんとなくは知っているけど、「じゃあ、どれだけ地中で暮らしているのか」というのはよくわからない。まあ、だいたい半年から1年ぐらいなんでないの?という程度。翌年の夏ぐらいまでなのかなあ、と漠然と思っている人は多いと思う。

が、17年蝉だそうである。17年に一度、一斉に地上に出てきて鳴きわめき、交尾しまくるわけだ。なんでも、今年米国で発生(?)する17年蝉は総計で1兆匹にもなるんでないか、といわれている。い、いっちょうっすか。・・17年蝉の他に、13年蝉というのもいて、これも13年に一度、一斉に出てくるらしい。要するに、時期を同じくして一斉に出てくることで、天敵に食われても十分な数の仲間が子孫を残せる、ということなんだそうだ。

それにしても、なぜ17年蝉であったり13年蝉であったりするのか。15年蝉とかではいけないのか。——そう、いけないのである。なんで17年と13年か、といわれて、ピピッと来た人は、数学が得意な人に違いない。17と13に共通した特徴。それは、どちらも素数である、ということだ。

これらの蝉が一定期間ごとに発生するのは、要するに仲間が一度に発生して子孫を残すためである。が、もし似たようなことを考える蝉が他にもいて、そいつらと時期がダブルブッキングしてしまうと、餌も足りなくなるし思うように子孫を残せなくなってしまう。つまり、一定期間ごとに大量発生するタイプの蝉は、「極力、他の奴らとダブルブッキングしないこと」が繁栄のための条件なのだ。——もし、10年蝉というのがいたとすると、彼らが一斉に世に出てくるときには、2年蝉、5年蝉といったやつらと常に発生年が重なってしまう。15年蝉も、5年蝉、3年蝉といったやつらと常に同じ歳に発生してしまう。「たまたま今年はぶつかっちゃった」というならまだしも、毎回同じ連中とぶつかることが決まっているわけだから、そりゃあ衰退していくだろう。

が、素数である13年、17年は、自分たち以外に「常に同じ歳に発生する連中」はいない。両者が「たまたま同じ歳にぶつかる」のは、なんと221年に1度しかない。——もちろん、素数は他にもたくさんあるけど、5年とか7年ぐらいでは「たまたま他とぶつかる」回数も割合と多いし、101年蝉などは地上に出る前に寿命がつきてしまうだろう。ほどよいところで13年と17年が残った、ってことでないだろうか。

ま、これは「そういう説もある」ということであって、そうだと解明されているわけじゃないんだけど、日頃なんの気なしに見過ごしている出来事も、実はそういう「数学の世界による裏打ちがなされているのだ」と感じられる好例としてちょっと紹介してみた。

・・世の中にはさ、「数学なんて、社会に出たら何の役にも立たない。足し算引き算と九九ができれば十分だ」なんていう人がけっこういるんだよね。そういう人は、実は自分が暮らす社会の、自分には見えないところでは数学が生きているんだ、ということに気づかない人なのだろうと思う。蝉の世界にも素数という概念が生きているわけだし、今の経済は微積分なしには成り立たなくなってる。であるのに、表立ってそういうものが見えてこないために、「そんなものは世の中ではいらないんだ」なんて嘯くようになってしまう。

昨今、子供の理系離れが深刻になってるそうだけど、もっとそういう「世の中は、実は数学でできているんだ」ってことを見せられたらいいのにな。そうすれば、少しは興味を持つだろうに、ね。

公開日: 金 - 5月 21, 2004 at 02:59 午後        


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