お話 「オオカミ少年」


なんか、ごく一部で意外に好評だったりするので(笑)、独立したカテゴリにしてみました。
ほとんど何の意味もない、寓話のお話です。

 
 

お話 「オオカミ少年」

あるところに、とっても嘘つきな少年がいました。少年は、村の人を驚かしてやろうと、大声で「オオカミが来たぞ!」と叫んで回りました。それを聞いた村人たちはびっくりして逃げ惑いました。
 その姿に大笑いした少年は、これに味を占め、暇があると「オオカミが来たぞ!」「オオカミが来たぞ!」と叫んで回りました。けれど、次第に村人たちはダマされなくなり、ついには少年がいくら「オオカミが来たぞ!」と叫んでも、誰も相手にしてくれなくなってしまいました。

そこで少年は一計を案じました。彼はある日、畑で野良仕事をしているとある村人を見つけると、そっと近づき、小声でいいました。
「来年の○月○日に、オオカミの大群がこの村を襲うらしいよ」
村人は、もちろん相手になんかしません。
「またか。今度は別の手で引っかけようったってそうはいくか」
「いや、僕がいうんじゃない。その筋からの情報なんだ。あなたの他には、誰にもこの話はしていないんだ。いえばパニックになるからね」
「・・なんだって、オレにだけそんな話をしたんだ?」
「だってあんたは、前に僕があんたの畑からトマトを盗んだとき、警察にいわないで、叱るだけで勘弁してくれたじゃないか。黙っていたけど、僕は今でもあのときのことを感謝してるんだよ。だから、あんたにだけ特別に話したんだ。他のみんながオオカミに食われるのはしょうがない、でも、あんただけは助けたいと思ってさ。——あんたも絶対、他人にこの話をしちゃだめだよ」

村の酒場の片隅で一人で呑んでいる農夫に。井戸端で洗濯をしているおばさんに。教会から帰ろうとしている隣のおじさんに。彼は「あなた一人だけに、こっそり」と、この話をしました。毎日、一人か二人だけに、こっそりと。——やがて半年もすると、彼の話は、誰も知らないけれど誰もがみんな知っていることとなりました。表向きは誰もこの話などしないけれど、二人か三人きりになると、揃って周りを見回して、こそこそと小声でこの話をしていました。

そして、○月○日。村中がそわそわと、何の用もないのに村の中を行ったり来たり、隣の家の様子をうかがったり、村長さんの家をそっと覗いてみたりする人であふれました。彼はその様子を見ると、1年ぶりに大きな声で叫びました。

「オオカミが来たぞ!」

——それから数日かけて、少年は無人となった村から金品を集めると、その晩のうちに逃げ出しました。そしてそのお金と話術を使って成功し、大金持ちになったとのことです。めでたし、めでたし。

公開日: 木 - 8月 12, 2004 at 03:53 午後        


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