お話 「シンデレラ」


犬も歩けば棒に当たる、というけれど、棒の立場からしたら、ただの災難だったりして、というお話。(あ〜、なんかイマイチだったなぁ、これ)

 
 

お話 「シンデレラ」

シンデレラは、その家の奴隷でした。毎日毎晩、母や異母姉たちの命令に従って、ただひたすら働いていました。——その夜、その国の王子様までが招待されるという、いわばその国最大のイベントともいえる晩餐会にも、シンデレラだけは行くことができませんでした。母も姉たちも、美しく着飾って出かけていったというのに・・。

「こんなこと、許されるはずないわ。きっと、魔法使いかなにかがやってきて、あたしを救い出してくれるはずだわ」

こんなことがあるたび、シンデレラはいつもそう強く願いました。いつの日か、きっとそんなおとぎ話のような出来事が起こるわ。そう信じながら・・。
 けれど、世の中にそんな都合のいい魔女などいるわけがありません。シンデレラだって、そんなことはわかっているのです。けれど、そうとでも思わなければやってられないではありませんか。このまま、母や姉の小間使いとして一生を終えるんだ、なんて誰が我慢できるでしょう。神様は、そんな残酷ではないと信じたいではありませんか。
 その夜も、そうして一人彼女は夢想していました。「早く、魔法使いが来ないかな」と。・・けれど、いつまで待っていても、誰も彼女の元を訪れたりはしませんでした。
「ああ、このままでは晩餐会も終わってしまう・・」
 時間は刻々と過ぎていきます。——「ああ、もうやめたっ!」彼女は遂に立ち上がりました。結局、自分の運命は、自分で切り開くしかないんだわ。神様は、美しくもなく才覚もない平凡な人間のことなど考えてはくれないのよ。魔女が来ないなら、あたしが魔女になってやる。
 シンデレラは、矢も楯もたまらず、こっそりと家を抜け出し、高い塀を乗り越え、お城へと潜り込みました。

けれど、既に城では、晩餐会はお開きとなっていました。次々と美しく着飾ったものたちが帰っていきます。
「・・くやしいわ、せっかくここまできたっていうのに。このままじゃ帰れないわ」
 シンデレラが地団駄を踏んでいると、そこへなんとも美しい女性が慌てて階段を駆け下りてくるではありませんか。
 それは、隣の国からお忍びでやって来た王女でした。
「——急がないといけないわ。12時までに戻らないと、お忍びで出かけて来たことがお母様にばれてしまう」
 その時です。シンデレラの目の前でちょっとした事件が起こりました。王女が履いていた、ガラスの靴がすっぽりと脱げてしまったのです。
 王女はびっくりして振り返りましたが、ともかく一刻も早く帰らなければいけません。
「あんな靴、またお父様にねだって買ってもらえばいいわ・・」
 そのまま行こうとする王女を見て、シンデレラは慌てて飛び出しました。
「あの! 靴をお忘れですよ!」
「——ああ、いいのよそんなの。どうせただの貰い物だし、履きにくいったらありゃしない。一体、どこの誰よ、ガラスの靴なんか考えたのは」
「でも、こんな高価なものを・・」
「いいのよ、また買ってもらうから。なんなら、あなたにあげるわ」
 王女はもう片方もすっぽりと脱ぎ捨ててシンデレラに放り投げると、「あ〜これで走りやすくなったわ」とつぶやき、スカートをたくし上げて駆け下りていきました。
 ——あとには、長い城への階段の途中と、そして彼女の腕の中に、美しいガラスの靴だけが残されました。
 その時。城の奥から美しい声が聞こえてきました。
「——待って下さい、美しい人。なぜ、そんなにも急いで帰ってしまわれるのですか!?」

 ——それから数日後。
 ガラスの靴の片方をもった城の番兵が、シンデレラの家を尋ねてきました。
「王様の命令で、この靴にぴったりあう人を捜しているのだ」といいます。
 姉も母も、もちろんぴったりと合いはしませんでした。もちろん、シンデレラも。それもそのはず、高貴な王女はほとんど自分の足で出歩くこともなかったせいか、人並みはずれて小さく、まともな大人では合うものなど一人もいなかったのです。
「・・困ったぞ。もうこれで町中の人間を調べ尽くしてしまった。一体、どうすればいいんだ。このまま帰ったら罰金ものだぞ・・」
 頭を抱えながら帰っていく番兵を、シンデレラは追いかけて叫びました。
「すみません! その靴は、あたしのなんです!」
「なんだって? だって、さっきはあわなかったじゃないか」
「そうなんです、晩餐会なので、子供の頃に買ってもらった、とっておきのガラスの靴を履いていったんです。でも、小さすぎて足に合わなくて途中で脱げてしまって。——それが証拠に、ほら、ちゃんともう片方もありますわ」
 そういってシンデレラは、もう片方の靴を懐から取り出してみせました。「要するに、この靴の持ち主がわかればいいんでしょう? それなら、あたしですわ!」

「・・ほんとうに、あれは君だったのかい?」
婚礼の晩、王子はどうにも承服しかねるといった顔つきでシンデレラに尋ねました。シンデレラは、にっこりと微笑みました。
「どうしてそんなことをお聞きになるの?」
「だって、話によると君はずいぶんと貧しくて苦労していたそうじゃないか。晩餐会に着てくる服さえなかったんだろう? それに、君のお母さんやお姉さんたちは、君があんな高価なガラスの靴など持っているはずがないって不思議がっていたし」
「そうね——きっと、お話ししてもお信じにならないと思うけれど・・」
 ——やっと。やっと、あたしのところに魔女がやってきた。
 シンデレラは王子に見られぬよう笑いを押し殺すと、遠い昔のことを思い出すように話し始めました。
「・・あの晩、わたしのところに魔法使いがやってきたのです・・」

・・歴史は、勝ったものによって作られる。

公開日: 金 - 8月 13, 2004 at 07:30 午後        


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