童子教

 
夫貴人前居 夫れ貴人の前に居ては
顕露不得立 顕露に立つことを得ざれ
慎不顧左右 慎んで左右を顧みざれ
不問者不答 問はずんば答へざれ
三宝尽三礼 三宝には三礼を尽し
神明致再拝 神明には再拝を致し
人間成一礼 人間には一礼を成し
師君可頂戴 師君には頂戴すべし
過墓時則慎 墓を過ぐる時は則ち慎め
過社時則下 社を過ぐる時は則ち下り
向堂塔之前 堂塔の前に向かつて
不可致無礼 無礼を致すべからず
人倫有礼者 人倫礼有れば
朝廷必在法 朝廷必ず法在り
人而無礼者 人として礼無きは
言語不得離 言語離るることを得ず
語多者品少 語多きは品少なし
老狗如吠友 老ひたる狗の友を吠ゆるが如し
勇者必有危 勇める者は必ず危きこと有り
夏虫如入火 夏の虫の火に入るが如し
春鳥如遊林 春の鳥の林に遊ぶが如し
人耳者附壁 人の耳は壁に附く
密而勿讒言 密かにして讒言すること勿れ
人眼者懸天 人の眼は天に懸り
隠而勿犯用 隠して犯し用ゆること勿れ
車以三寸轄 車は三寸の轄を以て
遊行千里路 千里の路を遊行す
人以三寸舌 人は三寸の舌を以つて
破損五尺身 五尺の身を破損す
口是禍之根 口は是禍の根なり
使口如鼻者 口をして鼻の如くならしめば
終身敢無事 身を終るまで敢へて事無し
過言一出者 過言一たび出づれば
駟追不返舌 駟追舌を返さず
白圭珠可磨 白圭の珠は磨くべし
禍福者無門 禍福は門無し
唯人在所招 唯人の招く所に在り
夫積善之家 夫れ積善の家には
(写教帳ではここまで)
必有余慶矣 必ず余慶有り
人而有陰徳 人として陰徳有れば
必有陽報矣 必ず陽報有り
人而有隠行 人として隠行有れば
必有照名矣 必ず照名有り
信力堅固門 信力堅固の門には
災禍雲無起 災禍の雲起ること無し
念力強盛家 念力強盛の家には
福祐月増光 福祐の月光を増す
前車之見覆 前車の覆るを見ては
後車之為誡 後車の誡とす
前事之不忘 前事の忘れざるを
後事之為師 後事の師とす
善立而名流 善立つて名を流し
寵極而禍多 寵極つて禍多し
君子不誉人 君子は人を誉めず
則民作怨矣 則ち民怨を作す
入境而問禁 境に入つては禁を問へ 
入国而問国 国に入つては国を問へ
入門先問諱 門に入つては先づ諱を問へ
愚者無遠慮 愚者は遠慮無し
必可有近憂 必ず近き憂ひ有るべし
師匠打弟子 師匠弟子を打つ
非悪為令能 悪むにあらず能からしめん為なり
生而無貴者 生れながらにして貴き者無し 
習修成智徳 習ひ修して智徳と成る
貴者必不冨 貴き者は必ず冨めず
冨者未必貴 冨める者は未だ必ず貴からず
雖冨心多欲 冨むと雖も心に欲多ければ
是名為貧人 是を名づけて貧人とす
雖貧心欲足 貧しと雖も心足んぬと欲せば 
是名為福人 是を名づけて福人とす
一日学一字 一日に一字を学べば
三百六十字 三百六十字
一字当千金 一字千金に当り
一点助他生 一点他生を助く
薄衣之冬夜 薄衣の冬の夜も
忍寒通夜誦 寒を忍んで通夜に誦せよ
乏食之夏日 食乏しきの夏の日
除飢終日習 飢を除いて終日習へ
酔酒心狂乱 酒に酔ゑば心狂乱す
過食倦学文 食過ぐれば学文に倦む
温身増睡眠 身温なれば睡眠を増す
安身起懈怠 身安ければ懈怠起る
匡衡為夜学 匡衡は夜学の為に
鑿壁招月光 壁を鑿ちて月光を招く 
蘇秦為学文 蘇秦は学文の為に
錐刺股不眠 錐を股に刺して眠らず
俊敬為学文 俊敬は学文の為に
縄懸頸不眠 縄を頸に懸けて眠らず
車胤好夜学 車胤は夜学を好み
聚螢為燈矣 螢を聚めて燈とす 
倪寛乍耕作 倪寛は耕作し乍ら
腰帯文不捨 腰に文を帯して捨てず
此等人者皆 此等の人は皆
昼夜好学文 昼夜学文を好んで
文藻満国家 文藻国家に満つ
智者雖下劣 智者は下劣なりと雖も
登高台之閣 高台の閣に登る
愚者雖高位 愚者は高位なりと雖も
堕奈利之底 奈利の底に堕つ
愚者常懐憂 愚者は常には憂を懐く
戴恩不知恩 恩を戴ひて恩を知らざるは
如樹鳥枯枝 樹の鳥の枝を枯らすが如し
蒙徳不思徳 徳を蒙つて徳を思はざるは
如野鹿損草 野の鹿の草を損ずるが如し
父母致孝養 父母に孝養を致し
仏神垂憐愍 仏神憐愍を垂れ
所望悉成就 望む所悉く成就す   
綾羅錦繍者 綾羅錦繍は
全非冥途貯 全く冥途の貯へに非ず 
黄金珠玉者 黄金珠玉は
只一世財宝 只一世の財宝  
官位寵職者 官位寵職は
唯現世名聞 唯現世の名聞
為己施諸人 己が為に諸人に施せば
得報如芥子 報ひを得ること芥子の如し
折花供仏輩 花を折りて仏に供ずる輩は
速結蓮台趺 速かに蓮台の趺を結ぶ
(※一部改字、大幅にカットしております)